えん罪について

Q.えん罪とはなんですか?

A.えん罪とは、ある犯罪事実について、いわれのない非難を受け、犯人とされてしまうことです。問題とされている犯罪そのものがじつは発生していなかったという場合もあれば、犯罪が発生したことは間違いがないけれども犯人は別の人であるという場合もあります。

ちなみに、えん罪は、漢字では「冤罪」と書きます。この「冤(えん)」という字は、ウサギ(兔)がおおい(冖)をかぶせられて小さくなっていることを意味し、転じて、無実の罪や濡れ衣を表すものとして用いられています。

Q.日本でも、えん罪事件は起きているのでしょうか。

A.非常に残念なことではありますが、日本にもえん罪事件はあります。

これまでに、再審(やり直しの裁判)が認められてえん罪であったことが確定した事件の中には、死刑事件も含まれています。また、痴漢や万引き等、何気ない日常生活の中で起きる事件で、それまで犯罪とはなんの関わりもなく生きてきた人が巻き込まれて犯人扱いされてしまうこともあります。

えん罪がどのぐらい発生しているかを統計的に示すことはできませんが、袴田事件や名張事件、大崎事件など、現在再審請求中の著名事件は数多くあります。

Q.日本では、なぜえん罪事件が起きてしまうのでしょうか。

A.えん罪の発生原因は一つではありません。えん罪は、捜査・裁判の過程での、関係者の判断の誤りやルール違反と、特定の人を犯人と決めつけて糾弾するマスメディアや報道を鵜呑みにする市民の態度等、様々な事象の積み重ねと連鎖の結果、発生するものです。

その中でもえん罪の原因として日本で特に指摘されているのは、自白追及型の取調べと、その取調べに過度に依存した捜査・裁判のあり方の問題です。実際、湖東記念病院事件では、いわゆる供述弱者に対して威圧的、暴力的な取調べを行って精神的に追い詰めた上に、本人の迎合的供述態度や恋愛感情等を利用し、捜査側の描くストーリーを示唆してそれに沿った虚偽自白をさせたことが明らかとなっています。

また、乳児揺さぶられ症候群(SBS)や虐待による頭部外傷(Abusive Head Trauma、AHT)」の事例にも見られるように、実際には間違っている可能性がある専門家の証言等が「科学的」な証拠として過度に絶対視されてしまうことも重大な誤判原因の一つです。

Q.えん罪をなくすために、私たちはどうすればよいでしょうか。

A.捜査も裁判も人間の行うことなので、間違いをゼロにすることはできませんし、ゼロにできると思うべきでもありません。

少しでもえん罪を減少させるためには、実際にえん罪であることが明らかとなった事例を分析して原因を究明することが求められます。

たとえば、アメリカでは雪冤された事件を分析し、えん罪の原因を統計的にも明らかにする研究が進められています。さらに、アメリカでは、州の組織として「えん罪調査委員会」が設立されたり、検察庁の内部に、有罪判決に誤りがないかを調査・確認する部署が設けられたりする等、えん罪救済のための制度的な取組みにも力が入れられています。これらの制度や取組みは、アメリカで多数のえん罪事件が明らかになり、えん罪原因が明らかなった結果、えん罪をなくすために社会全体で取り組んでいくべきであるとの意識が高まったことが背景にあります。

これに対して日本では、公的機関によるえん罪救済の取組みはなく、えん罪原因の研究も不十分なのが現状です。IPJでは、えん罪救済の活動を通して、公平・公正な司法を実現するための法制度上の解決策も提言していきたいと考えています。

また、市民の皆さん一人一人の協力も、えん罪救済のための大きな力となります。求められることは、捜査・裁判には間違いがあるかもしれないという前提に立ち、もたらされる情報に本当に間違いがないか、裁判・捜査のルールに照らして適切な結果が得られたといえるかどうかを批判的に検討することです。

そのためにはまず、捜査・裁判のルールや基本的な考え方を理解することも必要です。IPJでは定期的に、勉強会を兼ねたイベント等も行っていますので、関心をお持ちの方は是非ご参加下さい。

Q.えん罪事件に巻き込まれてしまったら、どうすればいいのでしょうか。

A.どんなに犯罪に関わらないよう気をつけて生活をしていたとしても、ある日突然えん罪事件に巻き込まれてしまうことはあります。どのような対応が適切かは事件ごとに異なりますので、自分あるいは周囲の人が事件に巻き込まれてしまった場合は、できるだけ早めに弁護士に相談することをお勧めします。また、すでに起訴された段階であれば、IPJにお申し込み頂くことも可能です。

一旦有罪判決を受け、確定してしまった後も、裁判のやり直しを求めることはできます。それが再審制度です。

ただし、この制度を利用するためには、一般に、無罪等を言い渡すべき「明らかな」新証拠を提出することが必要となります。日本では、この「明らかな」証拠と認めてもらうことが難しい上、一旦認められても検察官の不服申し立てによって覆る場合もあること、また、この段階での、検察側が持っている証拠の開示を求める権利が保障されていないことや公的な弁護人を求める制度がないこと等、様々な事情から、実際に再審開始に至ることは少ないのが現状です。

有罪判決確定後にIPJにお申し込みいただいた場合は、当該事件を担当した弁護人とは別の視点から、再審を求めることが可能かどうか、IPJがお役に立てることがあるかどうかを検討します。

 IPJについて

Q.イノセンス・プロジェクト・ジャパンとは、どういう団体ですか。

A.イノセンス・プロジェクト・ジャパン(IPJ)は、刑事事件のえん罪の被害者を支援し救済すること、えん罪事件の再検証を通じて公正・公平な司法を実現することを目指しています(→トップページ参照)。

ひとつひとつのえん罪事件を科学の力を使って支援することで、えん罪の被害から1人でも多くの人を救い出すことが目的です。さらに、事後的に、それらの事件のえん罪の原因を検証したいと考えています。二度と同じ過ちが繰り返されないように、えん罪という「失敗」から学び、その教訓を刑事司法や社会の改革につなげることを目指して活動しています。

このような理念のもと、IPJは2016年4月1日に設立されました。もともとは「えん罪救済センター」として活動してきましたが、2022年に、活動のより一層の発展を目指して、「イノセンス・プロジェクト・ジャパン」に名称を変更しました。「IPJ」は新たな名称「Innocence Project Japan」の頭文字です。

Q.イノセンス・プロジェクトの活動は、どこが発祥なのですか。

「イノセンス・プロジェクト」は、もともとアメリカで1992年に活動を開始した民間の団体です。

DNA鑑定などの科学的証拠を用いて、無償でえん罪事件を支援・救済する活動で、このような活動を行う団体を「イノセンス団体」と呼んでいます。イノセンス団体により、この30年間に多数の事件でえん罪が晴らされてきました。

IPJも、イノセンス団体の活動をモデルに設立されました。

現在では、アメリカ国内だけで、60から70のイノセンス団体があります。また、いまやイノセンス団体の活動は世界に拡がり、ヨーロッパ、南アメリカなどにも同じ理念のもと活動している多くの団体があります。

アジア地域にも、2015年前後から、同様の活動をする団体が誕生しました。
IPJは台湾イノセンス・プロジェクトと一緒に、タイ、シンガポールなどのアジアのイノセンス団体と2018年に「アジア・イノセンス・ネットワーク」を立ち上げ、連携しつつ活動しています。ニューヨーク大学のアメリカ・アジア法研究所(US-ALI)とも密接に連携し、アジア地域におけるイノセンス運動について情報交換しています。

Q. IPJはどのような組織なのですか。

A.IPJは、えん罪事件の支援・救済を通じてより公正・公平な刑事司法を実現したいというIPJの理念に賛同した様々な専門家が、無償でえん罪事件の当事者と弁護人を支援する団体です。専門家には刑事事件の経験豊かな弁護士はもちろん、法学、心理学、情報科学、自然科学などの様々な分野の研究者がいます(詳しくはこちら)。IPJは多様な専門家がえん罪事件の支援に取り組む、日本ではじめての団体です。

この活動は、同じくわたしたちの理念を共有して下さっている皆様からの寄付で成り立っています。えん罪を晴らすためには、膨大な資料を入手し、専門家に相談して科学的に事件を調査することなどが必要です。わたしたちは、皆様から頂いた寄付で、個別のえん罪事件の支援・救済のための諸活動を行うとともに、えん罪事件や刑事司法の課題を市民の皆様と考えるためのシンポジウムや研修等を開催しています。詳しくはこちらをご覧ください。

ボランティアとして、多数の大学の学生もIPJの活動に関わっています。学生の活動についてはこちらをご覧下さい。

Q.IPJの活動で、これまでにどういう成果がありますか。

A.IPJには、たくさんの方からえん罪事件に関するご相談があります。わたしたちは慎重に事件を調査・検討し、支援することができる事件については、弁護人として弁護をしたり、専門家を紹介したりするなど、えん罪を晴らすための様々な活動を行っています。

これまでに、IPJが支援をした2つの事件で無罪判決が確定しました。いわゆる「湖東記念病院事件」と「大阪AHT事件」です。これらの事件の詳細については、こちらをご覧下さい。

いまも支援を続けている事件もあります。現在支援をしている事件については、ご本人と弁護団と連携を取りながら支援を進めています。詳しくはこちらをご覧下さい(なお、ホームページなどで公表している事件については、ご本人に掲載の了承を頂いています)。

Q. 事件の支援以外に、どのような活動をしていますか。

A.えん罪に巻き込まれてしまうことは、誰の身にも起こりうることです。また、えん罪事件を検討することで、現在の日本の刑事司法が抱える様々な問題が浮き彫りになります。

ですから、わたしたちは、一般市民の皆様と一緒にえん罪の問題について考え続けることが必要だと考えています。そこで、事件の調査や支援をする活動以外にも、えん罪の問題を皆様と考えるためのセミナー、シンポジウム等のイベントを定期的に開催しています。

イベントに関するお知らせは、メーリングリストで配信しています。メーリングリストへのご登録を希望される方は、是非、こちらにお知らせ下さい。

えん罪の問題については、「難しい」「わたしには関係ない」などと敬遠してしまう方もおられるかもしれません。でも、わたしたちのイベントでは、えん罪をめぐる様々な問題を分かりやすく取り上げています。是非いちど、一緒にえん罪の問題について学んでみませんか。

支援を受けるには

Q.えん罪事件に巻き込まれてしまいました。IPJに支援を申し込むには、どうすればいいですか。

A.IPJにご相談頂くには、2つの方法があります。

1つめは、本ホームページの「支援の申込」から、ウェブフォームでお送りいただく方法です。ウェブフォームはこちらをクリックしてください。情報は暗号化されていますので、ご安心下さい。ご相談下さるときは、判決文等の事件に関連する資料がお手元にあれば、ウェブフォームの方は併せてPDFファイルでお送り頂くか、難しい場合は郵送下さい。

2つめは、「IPJ相談申込書(日本語)」をダウンロードしていただき、手書きなどでお送りいただく方法です。上記の「支援の申込」ページのなかほどからファイルをダウンロードしていただくことができます。えん罪を訴えておられる方が刑務所等に収容されていたり、パソコンにアクセスすることができなかったりするときは、プリントアウトした相談申込書をこちらから郵送でお送りすることも可能です。その旨、ウェブフォームか郵送にて、お申し付け下さい。

なお、郵便等によるご郵送先は「立命館大学・人間科学研究所気付」ですが、立命館大学に直接お越し頂いても対応することはできません。お急ぎの場合は「お問い合わせフォーム」、またはお電話(受付時間は9時から17時まで)からのお問い合わせをお願いいたします。

Q.どういう事件でも支援してもらえるのでしょうか。

A.わたしたちが支援のお申込を受け付けることできるのは、以下の条件のすべてを満たす事件です。

  1. 犯人ではないのに犯人とされた、または、犯罪でないのに犯罪とされたという刑事事件で、かつ、
  2. その事件について起訴されている場合です。

また、お申し込み頂けるのは、①事件の当事者か弁護人である方か、②当事者か弁護人から支援のお申込について了承を得ている方です。

上記の条件を満たす事件についてはお申込後に慎重に調査を行います。そのうえで、DNA型鑑定などの科学鑑定によって「えん罪」であることを明らかにでき、IPJがお役に立てる可能性のある事件について、支援の決定をいたします。

刑事事件について起訴されたけれども、まだ判決が確定していない事件についても、ご相談頂くことが可能です。ただし、弁護人が付いているときは、可能であれば弁護人にご相談の上、お申し込み下さい。

IPJのほかにえん罪事件の支援をしている団体としては、日本弁護士連合会の人権擁護委員会や、国民救援会などがあります。それらの団体には、ご自身で別途にお申し込み頂く必要があります。

また、弁護人のご紹介等は行っておりませんので、あらかじめご了承下さい。

Q. 相談をした場合、どのように手続が進むのでしょうか。

A.ご相談下さった場合の支援に至るプロセスや内容については、こちらをご参照下さい。支援できるかを判断するためには、事件に関する様々な資料が必要です。判決文等のみならず、お手元にある資料等がありましたらお送り下さい。ご送付は、ファイルでの送信または郵送でお願いいたします。

ただいま、多数の事件についてのご相談が寄せられています。支援の判断までに長い期間が必要になる可能性がございますので、あらかじめご了承下さい。

支援することになりましたときには、構成メンバーの弁護士が再審請求等を行うこともあります。また、わたしたちの科学者のネットワークを利用して、協力科学者に依頼をしたり、専門家を紹介したり、鑑定に関するアドバイスをしたりしております。なお、支援に関する報酬は頂いておりません。

Q. IPJに相談したことは、他人にばれてしまわないでしょうか。秘密は守って頂けますか。

A.わたしたちのプライバシーポリシーにつきましては、こちらをご覧下さい。もちろん、ご相談いただいたことを含め、個人情報や相談内容は管理を含め厳重に取り扱い、プライバシー保護に努めております。

支援の判断が終了した資料等につきましては、ご希望がありましたら返却いたします。ご相談時にお申し付け下さい。

活動に参加するには

Q. えん罪事件に関心があります。私は法律などのことはよく分からない一般の市民ですが、何かできることはありますか。

A.ご関心をもってくださいましたことに、まずは御礼申し上げます。多くの一般市民の皆様にえん罪の問題に関心を持って頂くことで、司法は変わると思っております。

わたしたちのホームページでは、えん罪の問題について様々な発信をしていこうと考えております。定期的に、シンポジウム等のイベントも開催しております。イベント等の情報につきましては、メーリングリストでお知らせしておりますので、「ML登録フォーム」より、メーリングリストへの登録をご依頼下さい。

また、公式のSNS(Facebook)や、ホームページのお知らせコーナーも是非ご覧下さい。

わたしたちは、えん罪事件の支援を無償で行っています。支援にあたっては、専門家による鑑定費用、交通費、印刷代、通信費その他の多額の費用が発生します。

皆様からのご寄付によるご支援により、より手厚く、幅の広いえん罪事件の支援をすることができるようになります。ぜひご協力をお願いいたします。頂戴しましたご寄付は、えん罪事件の支援活動に使わせていただきます。ご寄付は、こちらからお願いいたします。

ご寄付を下さった方には、領収書をお渡しすることができます。お申し付け下さい。

Q. 大学生もボランティアとして活動に参加していると聞きました。どのような活動をしているのでしょうか。私も参加できますか。

A.現在、甲南大学、龍谷大学、立命館大学、獨協大学、京都女子大学の学生約200名が、IPJのボランティアとして活動しています。IPJの支援や広報活動に参加するだけではなく、大学ごとに勉強会等を開催し、えん罪事件について学ぶとともに、講演会等を開催するなどしています。

学生は、大学ごとにSNS(Twitter、Instagram)のアカウントを作り、活動について発信しています。是非、フォローや「いいね!」をお願いいたします。

大学生で活動に関心がある方は、ボランティア学生にSNSアカウントを通じてご連絡いただくか、お問い合わせフォームからご連絡下さい。

Q. 私はメディア関係者です。IPJの関係者に取材を依頼する際には、どうすればいいでしょうか。

IPJの運営委員や、IPJに関わる専門家等への取材等は、お問い合わせフォームからお願いいたします。