茨木AHT事件


茨木AHT事件


茨木AHT事件とはなにか

揺さぶられっこ症候群とえん罪

揺さぶられっこ症候群(Shaken Baby Syndrome、SBS)という言葉を聞いたことはありますか。乳幼児に3つの徴候(硬膜下血腫、網膜出血、脳浮腫)が認められた場合、その子どもは激しい揺さぶりを受けたとする考え方です。この考え方は仮説にすぎないにも関わらず、日本の医療現場や福祉現場に広く浸透しています。しかし、SBS仮説の医学的妥当性に対しては多くの疑問が示されています。

最近では、揺さぶりを含めた頭部外傷を総称して、虐待による乳幼児頭部外傷(Abusive Head Trauma、AHT)とも呼ばれています。

この事件は、IPJが支援する3つ目のSBS/AHT事件です。

身に覚えのない虐待

2021年3月14日、生後4か月のAちゃんが大阪府茨木市の自宅で突然けいれんを起こして意識不明となり、搬送先の病院で重篤な脳障害と診断されました。Aちゃんの頭の中に硬膜下血腫などが見つかったため、当時Aちゃんの母親と交際していた男性が、Aちゃんの頭部に何らかの方法で暴行を加えたとされ、傷害罪で起訴されました。男性は、捜査段階から一貫してAちゃんへの暴行を否定し、無実を訴えています。

裁判の争点

検察官の主張は、Aちゃんに見られた硬膜下血腫・眼底出血・脳浮腫という、いわゆる「三徴候」に加え、検察側医師が揺さぶりの証拠と主張する「斜台後面血腫」や「揺さぶりに特徴的な眼底出血」を根拠としています。しかし、これらの所見を虐待の証拠と直結させる見解は、専門家の間でも意見が分かれており、確立された医学的知見とは言えません。

一方、弁護人は、脳神経外科、脳神経内科、神経眼科といった複数の専門医の協力のもと、これらの医学的所見に全く異なる説明を提示しています。まず、Aちゃんの身体には外表損傷が一切ありませんし、揺さぶりで生じるはずの一次性の脳実質損傷(びまん性軸索損傷)などもまったく存在しません。その上で、検察側が虐待の証拠とする「斜台後面血腫」はCTの虚像(アーチファクト)であり、CT検査の翌日に撮影された精密なMRIでは存在しないこと、そして「揺さぶりに特徴的な眼底出血」は、外傷ではなく、Aちゃんが陥った重度の低酸素脳症による脳圧亢進(テルソン症候群)の結果であると反論しています。

弁護人の主張の核心は、Aちゃんに見られた全ての症状が、虐待ではなく、重篤な内因性の急変で説明できるという点にあります。医学的にみて、Aちゃんに見られた硬膜下血腫や網膜出血は、急変時に目撃されている重度のけいれん発作と、それに続いた初期治療の遅れによる深刻な低酸素脳症を原因として生じることが十分に考えられます。Aちゃんには、急変前から頻繁なミルクの吐き戻しや眼球上転があり、また急変3日前のワクチン接種歴など、けいれん発作の引き金となりうる内科的要因も複数存在しました。

IPJの支援

2025年7月、IPJは、本件が、確立されていない医学的仮説に基づき、有罪認定がなされる危険性をはらんでいると認識し、弁護団への支援を開始しました。

2025年7月から第一審の公判が始まっています。IPJの学生ボランティアも大勢で公判を傍聴するなどの支援をしています。

2026年1月に結審、3月に判決の予定です。

【最新】茨木AHT事件

ご相談は、お気軽にお問い合わせください。