令和6年3月22日 参議院法務委員会 古庄玄知議員による質問

人質司法問題についての法務省担当者・法務大臣の認識

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  • 古庄玄知君
     法テラスの話は以上で終わりまして、次の話に移りたいと思います。
     まず、法務省の担当者にお伺いしたいんですけれども、一罪一逮捕・勾留の原則というのが刑事訴訟法の大原則としてありますけれども、これの意味についてお答えください。
  • 政府参考人(松下裕子君)
     お答えいたします。
     一般論として申し上げますと、お尋ねの一罪一逮捕一勾留の原則は、同一の犯罪事実につきまして、ある被疑者を重ねて逮捕、勾留することは原則として認められないとすることを意味しておりまして、その意義や理由につきましては、再度の逮捕、勾留を無制限に許すと、法がこれらについて厳格な時間制限を設けた意義が失われてしまうことが指摘されているものと承知しています。
  • 古庄玄知君
     そのとおりですね。
     私が現実にやった事件で、こういう事件がありました。ある選挙違反事件で、今から十数年前、ある日にちの午後三時から五時までの二時間、選対本部でA、B、Cの三人で共謀して、甲乙丙丁の四人に二十万円ずつ配って買収することを決めたと。この共謀に基づいて、指示された候補者のDさんがこの四人に二十万円ずつ配った容疑で逮捕されました。
     これについて、共謀したとする人たちはみんな容疑は否認していましたけれども、この案件のときに、容疑は、罪は一つでしょうか、それともそれ以外でしょうか。
  • 政府参考人(松下裕子君)
     お尋ねは個別の事件を前提とするものでございまして、また犯罪の成否ですとかその成立する場合の罪の数も含めまして、捜査機関により収集された証拠に基づいて個別に判断されるべき事柄であるため、お答えは差し控えたいと思います。
     その上で、あくまでも一般論として申し上げますと、成立する犯罪の個数につきましては、一般に構成要件を充足する数により判断され、その際、結果ですとか法益侵害の個数が重視される場合が多いとされているものと承知しております。
  • 古庄玄知君
     そうしたら、この場合、場合によったら、甲に対する買収、乙に対する買収、丙に対する買収、丁に対する買収と、四つの犯罪が成立する可能性もあるというわけですね。
  • 政府参考人(松下裕子君)
     重ねてで恐縮でございますけれども、お尋ねは捜査機関の活動内容や判断あるいは裁判所の判断に関する事柄でございまして、その当否につきまして法務当局としてお答えすることは差し控えたいと存じます。
     あくまで一般論として申し上げますと、刑事訴訟法規則百四十二条一項八号におきましては、逮捕の不当な蒸し返しを防止するという観点から、逮捕状の請求書に、同一の犯罪事実又は現に捜査中である他の犯罪事実についてその被疑者に対し前に逮捕状の請求又はその発付があったときは、その旨及びその犯罪事実を記載しなければならないとしておりまして、裁判官においては、逮捕の不当な蒸し返しとならないかという点も十分に検討した上で逮捕状を発するか否かを判断しているものと承知しています。
  • 古庄玄知君
     甲乙丙丁、四人に個別に配ったから犯罪が四つ成立するんだということもあり得るという形で現場はやられたんですけれども、それだと、百人に配りましょうという共謀をすれば百回逮捕、勾留ができるという、そういう理屈になるんですね。まあそれはお答えできないと思いますけど。
     そのときに実際どういうふうにやられたかというと、否認していました、で、三回逮捕、勾留されました、一日につき二十三日です、だから三回やられると六十九日、約七十日。もう三回ずっと否認していて、ある警察が、よく頑張ったと、じゃ、もう帰っていいよというふうに、帰っていいよと言われて、警察の玄関を出たら別の警察が、御苦労さん、がちゃってまた手錠を掛けたんですね。
     これは一部の例かも分かりませんけど、是非法務大臣に知ってもらいたいのは、現場ではそういうことが行われているということです。今あるかどうか知りません。だけど、今から何年か前はそういうことが現実にありました。私が実際に弁護したんだから、これは誇張でも何でもないです。
     今度大臣にお伺いしますけれども、人質司法という言葉を御存じでしょうか。御存じなら、その言葉の意味について御説明ください。
  • 国務大臣(小泉龍司君)
     人質司法との表現は、我が国の刑事司法制度について、被疑者、被告人が否認又は黙秘をしている限り長期間勾留し、保釈を容易に認めないことにより自白を迫るものであるといった批判がなされる際に用いられることがある表現だと理解しております。
  • 古庄玄知君
     警察とか検察庁とか、捜査機関がいわゆる人質司法を行って、身柄を人質に取って自白を強要していると、こういうことなんですけれども、これについて、こういうふうな言葉があること自体、批判されていること自体、大臣はどのようにお考えでしょうか。
  • 国務大臣(小泉龍司君)
     この被疑者、被告人の身柄拘束については、刑事訴訟法上、厳格な要件また手続が定められており、人権保障にも十分配慮したものとなっていると考えております。
     また、一般論として、被疑者、被告人の勾留や保釈についての裁判所、裁判官の判断は、刑事訴訟法の規定に基づいて個々の事件における具体的な事情に応じて行われており、不必要な身柄拘束がなされないよう運用されているものと承知をしております。
     このように、我が国の刑事司法制度は、身柄拘束によって自白を強要するものとはなっておらず、人質司法との批判は当たらないと認識しております。

大川原化工機事件の原因等についての法務省担当者の認識

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  • 古庄玄知君
     資料一、大川原化工機事件というのがありました。先ほど、拘置所の処遇が悪いということで、それを訴えたのについて、それは第一審では認められなかったみたいなんですが、この刑事事件の概要は、そこの概要に書いていますけれども、軍事転用可能な噴霧乾燥機というのを無許可で販売したということで、外為法違反で大川原化工機の社長と常務と相談役の三人が逮捕、勾留をされました。何回も保釈申請したんですけれども、これが認められずに、十一か月身柄拘束されました。その間に相談役という方が進行性胃がんにかかっているということが分かりまして、保釈請求もやっぱりこれ認められませんでした。最後、勾留執行停止には直前になったんですけれども、その相談役の方は胃がんで亡くなりました。
     第一回目の裁判が二〇二一年の七月十五日にやるはずだったんですけれども、検察官の方が第一回の期日を延期してほしいということで延期の申立てをして、八月三日まで延期されました。七月三十日までに検察の方が証拠開示をすると、そういうふうな約束を裁判所にしていたんですが、七月三十日になっていきなり公訴の取消しの申立てをしたと、これによってこの刑事事件は終わったと、こういう案件です。
     これについては、被告人側の方から民事裁判が起こされまして、去年の十二月二十七日に東京地裁が判決を出しまして、一億六千二百万円を払えということで判決が出ました。そのとき、裁判所に証人で出た担当警部補が、この事件そのものが捏造だったというふうに証言しております。また、その判決の中で勾留や起訴そのものが違法であるというふうに民事の裁判官は判示しております。現在、原告、被告、双方控訴して控訴審で係属中と、こういう案件があるんですけれども。
     法務省にお伺いしますけれども、第一回前にこの公訴を取り消すと、普通はあり得ない話なので、十一か月も三人の身柄拘束して、やっぱり裁判無理だから取り消すというふうなことをやっているのですけれども、この刑事事件、どの点に誤りがあったというふうにお考えでしょうか。
  • 政府参考人(松下裕子君)
     御指摘の事件につきましては、御紹介ありましたとおり、外国為替及び外国貿易法違反、関税法違反ということで、許可を要するものを無許可で輸出したという被疑事実で、令和二年から、三月から六月にかけて検察当局が公判請求をしたものの、令和三年七月に公訴を取り消し、その後、裁判所が公訴棄却決定をした事件であると承知をしております。
     東京地方検察庁におきましては、公訴を取り消した際、起訴時点ではその時点での証拠関係を前提に起訴相当と判断したものであるが、結果的に後に要件該当性に疑義が生じたということで、それを理由に公訴を取り消しているわけですけれども、そういうことになったことについては反省すべき点と考えているという旨をコメントしたものと承知をしております。
     それ以上の詳細につきましては、個別事件における検察当局の活動や裁判所の判断等に関わる事柄であり、また、現在、国家賠償請求訴訟が係属中でありまして、その中でも、御指摘のとおり、検察官の公訴提起や勾留請求の国家賠償法上の違法性などについて審理の対象となっておりますことから、お答えをすることは差し控えさせていただきたいと存じます。
  • 古庄玄知君
     さっき大臣の御答弁で人質司法というのはあり得ぬというふうにおっしゃいましたけれども、実は私の大分の事件で、大麻の有償譲渡、十か月身柄拘束されました。十か月後判決、これ無罪です。
     そういうふうに、認めなければ身柄を出さない、自白を迫る。先ほどの四回目逮捕された人なんかは、何回逮捕されるか分からぬから、もう何でもいいと。結局、認めたら罰金で終わったんですね。だから、こんなことなら最初から認めたらよかったなという話になったんですけれども。
     そういうふうに、否認すれば何遍でも逮捕するというのを、人質司法というのが現実にやっていますので、それは是非御認識いただいて、それを改善するために検察庁としてどうすればいいか。そんなことないんだよというふうに、ないから関係ねえんだよというんじゃなくて、真摯に受け止めて、それを改善していくにはどうすればいいかということを是非法務大臣には検討していただきたいというふうに思います。  また、刑事事件における検察官の役割は警察の役割とはちょっと違うと思うんですけれども、この刑事事件における検察官の役割、特に対警察との関係ではどうなのか、法務省の松下局長、お願いします。
  • 政府参考人(松下裕子君)
     お答えします。
     検察官は、公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正かつ迅速に適用実現するという刑事訴訟法の目的を達成するため、刑事事件について捜査を遂げた上で、起訴、不起訴の処分を行い、裁判所に法の正当な適用を請求し、裁判の執行を指揮監督するというのが検察官の役割と承知しております。
     警察との関係ですが、それぞれ独立の捜査機関ではありますけれども、刑事訴訟法百九十二条に、検察官と都道府県公安委員会及び司法警察職員とは、捜査に関し、互いに協力しなければならないと規定されておりますとおり、検察官は警察と緊密に連携を図りながら刑事事件の捜査を行うことが求められていると承知しております。
     その上で、さらに一般論として申し上げれば、仮に不適正な捜査活動があった場合には、そのような捜査活動によって得られた証拠は裁判で使用できない可能性もございますし、そういった影響を遮断して適正な捜査によって証拠を収集するよう努めることもまた検察官に求められていることであると承知しております。
  • 古庄玄知君
     また法務省にお尋ねしますけれども、法務省におかれましては、その検察官に対して、被疑者、被告人の人権に配慮した適切な捜査、公判を行う能力を向上するためにどのような研修を実施されているのか、お答えください。
  • 政府参考人(松下裕子君)
     お答えします。
     法務・検察におきましては、検察官に対して、任官直後はもとより、経験年数等に応じて各種研修を実施しております。そして、その一環として、監察指導案件に関する講義ですとか、弁護士から見た検察など、外部の視点も取り入れた講義などを実施しておりまして、こうした研修を通じて適切に捜査、公判を遂行する能力が涵養されるよう努めているところです。

検察官に対する人権教育の実施状況とその必要性についての法務大臣の認識

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  • 古庄玄知君
     最後の質問になりますけれども、大臣にお伺いします。
     検察官に対する人権教育の必要性、これについて是非大臣の方から御意見賜れればと思います。
  • 国務大臣(小泉龍司君)
    人権に関しては、「検察の理念」においても、検察の役割として、基本的人権を尊重し、刑事手続の適正を確保するとされております。また、人権教育及び人権啓発の推進に関する法律において、人権教育とは人権尊重の精神の涵養を目的とする教育活動をいうと規定されております。
     このような人権教育は、検察官に対するものも含めて重要なものであると認識しており、同法律に基づいて、人権教育・啓発に関する基本計画において、人権に関わりの深い特定の職業として検察職員について、研修等における人権教育、啓発の充実に努めるものとされております。
     このようなことも踏まえ、法務省においては、検察官に対し、国際人権関係条約に関する講義などの必要な人権教育を実施しており、引き続き、検察官に対する人権教育、これはしっかりと努めてまいりたいと思います。
  • 古庄玄知君
     やっぱり、刑事事件においては、身柄の部分というのが非常に大きくて、それが有罪か無罪かに関係してきたり、場合によったらその拘束状態を早く脱したいので、やってもいないことをやったと。で、それが何年もたった後に、いや、本当は俺はやっていないんだという、再犯、再審に結び付いたりいろいろするわけなので。
     それによって、検察庁、警察は、ミスしたぐらいで軽く考えるんではなくて、それによって一人の人生が台なしにされるということと、今回民事裁判もやっていますけれども、これ適正に捜査していれば、一億六千二百万円、税金払わなくても済むわけですよね。だけど、これをやっぱり最初の捜査の段階、これは起訴の段階、これに間違いがあったので、まあ高裁に行ってどうなるか分かりませんけど、少なくとも一審では一億六千二百万円を税金から払えという判決が出ているわけなので、国民にもその負担がかぶさってきているので、是非、その身柄の点については、法務省の方として身柄を取る場合の教育というか考え方というか、それを徹底してもらいたいと思います。
     以上です。