令和6年3月26日 衆議院法務委員会 稲田朋美議員による質問

再審開始決定に対する検察官による抗告の制限

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  • 稲田委員
     おはようございます。久しぶりにこの法務委員会で、また大臣には初めて質問ができますこと、感謝申し上げます。
     大臣は気骨のある、そして筋を通す政治家だと私は思っております。今日は再審法の改正について大臣と政治家としての骨太の議論がしたいと思っています。私は国会での質疑は目を通しておりますので、その御答弁の紙にあることではなくて、大臣の本当のというか、気持ちというか意見を聞きたいと思っています。
     再審事件、この長期化が問題になっています。昨年三月に東京高裁で再審開始が決定した袴田事件、今から十年前に静岡地裁でも再審開始が決定をされております。事件から五十七年、第一次再審請求から四十二年、最初の再審開始決定からでももう十年が経過をしていて、十年前の静岡地裁でも、捜査機関による証拠の捏造の可能性、そして、当時の村山裁判官は、これ以上拘置を続けることは著しく正義に反するといって保釈を認めたわけであります。無実の人が捏造証拠で死刑になるといったことはあってはならないし、国家による究極の人権侵害だと思います。
     今、超党派で議連も立ち上げて、百六十五名、その半分以上が自民党でございます。憲法三十一条から四十条、これは刑事手続における手続保障について諸外国に例を見ない詳細な規定があります。これは、戦前の刑事手続の濫用、人権弾圧の反省の下に決められたものであって、無実の人が処罰されないというのは憲法の要請でもあります。
     一方、再審法、たったの十九条です。そして、不利益再審は現行憲法下で廃止をされましたけれども、それ以外、百年以上改正がなされていないということでございます。
     既に四件の死刑判決が再審無罪、日弁連が支援をしている十八件の再審無罪、これは決して少ない数ではありません。現在第二次の再審請求中である飯塚事件では、既に被告人の久間三千年さんの死刑は執行されているんです。新たな目撃証言や有罪の重要な証拠を覆す証言などが再審請求審で調べられ、その動向も注目されています。死刑執行後に無罪判決が出るとすれば、日本の刑事司法の在り方を根本から問い直すことにもなります。
     刑事再審は、誤判による冤罪被害者を救済する最終手段です。現行憲法の下でこれだけ多くの再審無罪が確定し、その審理に長年を要するという現状はもう見過ごすことができない、人道上の問題になっていると言っても過言ではありません。
     大臣に伺いますが、今のこの現状、明らかに立法事実があると思います。法改正をすべきではないでしょうか。
  • 小泉国務大臣
     稲田委員が今おっしゃいましたこと、最近、大変多くの方々の意識の中にあって、様々な議論が行われています。再審制度については、そういった御議論ももちろん含めて検討していくべきものだとは思います。ただ、あらかじめ申し上げておきたいのは、確定判決による法的安定性の要請と、個々の事件における今先生がおっしゃった是正の必要性、この両方の調和点を求めていくという問題の構造は基本的なところに横たわっているわけであります。
     そして、様々な観点から慎重に検討すべき、様々な観点の中には今稲田委員がおっしゃったそういう問題ももちろん含まれております。そして、それに関わる検討、協議が今始められようとしています。これは、刑事訴訟法の一部改正法の附則で求められている検討に資するため、令和四年の七月から改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会を開催しておりまして、そこで再審請求審の証拠開示等についても協議が始められております。そこが動き始めているわけであります。
     我々のスタンスは様々な観点から慎重に検討するというものでございますけれども、様々な観点には今おっしゃったことが当然含まれており、慎重ですけれども、それはバランスを取るための慎重さは求められますが、慎重に丁寧に検討していく、そういうスタンスの中で、この刑訴法に関する附則によって起こされた協議会、刑事手続の在り方協議会、これを動かして、ここで大きな成果が出るように、充実した議論がなされるように法務省としても努めていきたい、努力していきたい、そのように思っております。
  • 稲田委員
     今大臣から、証拠開示などについて動き始めている、そして議論が進んでいるというお言葉を聞きました。期待をしたいと思います。
     ただ、法的安定性ということに関しましては、再審請求というのは無実の人を救済するというのが目的ですから、そこで法的安定性ということを言うと、それはまさしく有罪判決の維持ということになって、私は法の趣旨に反してくるのではないかと思います。
     刑訴法の四百四十五条において、再審開始事由の有無の判断が必要と認められるときは事実の取調べができるということが規定をされています。これだけです、規定は。ということは、ルールがない、まさしく、取調べをするのが必要かどうか、裁判所の広い裁量が認められているということです。
     再審請求者には、証人尋問や検証などの事実の調べや証拠開示を請求する権利はありません。法務省は、裁判所は柔軟かつ適正な対応をしているとおっしゃるんですけれども、袴田事件の再審請求において証拠が開示されたのは二〇一〇年以降、つまり、死刑確定から三十年以上、一つの証拠の開示も許されなかったんです。これで柔軟で適正な対応と言えるんでしょうか。死刑確定から三十年以上、弁護人が繰り返し行った証拠開示請求を検察官も裁判所も無視し続けることができるということ自体が、私は、法の不備、手続保障がなされていないということだと思います。
     もう一つ例を挙げます。
     二〇二〇年に再審無罪が確定した湖東事件では、第二次再審の即時抗告審まで一点の証拠開示も実現せず、再審公判で多数の証拠が開示され、捜査機関が隠していた無罪を裏づける証拠が明らかになって、無罪判決が言い渡されました。
     逮捕時に二十四歳であった女性は、無罪判決が出たときには四十歳。その間、刑の執行がなされて満期で出所になる三十七歳まで拘束を、服役しておられました。一体、誰が責任を取るんでしょうか。有罪判決を受けて服役をした当事者とその家族のお苦しみに思いを致さなければならないと思います。
     無罪判決後、大西裁判官は異例の説諭を行い、逮捕から十五年以上たって初めて開示された証拠もありました、取調べや証拠開示など、一つでも適正に行われていれば、本件は逮捕、起訴されることもなかったかもしれません、十五年余り、さぞつらく苦しい思いをしてきたと思います、もう西山さんはうそをつく必要はありません、これまで裁判を通して支えてくれる人に出会ったと思います、これからは自分自身を大切に生きてもらいたいです、今日がその第一歩になっていることを願っていますと結んだ裁判官の目は赤く、言葉を詰まらせていたといいます。私も、涙なくしてこのくだりを読むことはできませんでした。
     不当な捜査と証拠隠しで女性の二十四歳から四十歳までの人生を葬り去るようなことがあってはなりませんし、私は、これを個別の事件だといって片づけることができないんです。刑事司法の在り方に対する重大な問題提起です。再審手続において証拠開示のルールのないこと自体が問題だと思います。
     さらに、検察官が不服の申立て、抗告を申し立てていることが再審請求審を長引かせています。
     資料一を示しますが、ほぼ機械的にと言ってもいいほど、検察官の抗告、特別抗告がなされているわけであります。しかも、再審公判になって、そして無罪になれば、検察官は全く控訴していません。それだけでなくて、再審公判になると、今度は立証すらしないという事件も多くあるわけであります。これでは、再審公判が何のためにあるのか分からない。
     もう一つ、資料二を示します。これによりますと、欧米では、再審開始に対する検察官の上訴ができないとしている国が多いです。できるとしている韓国でも、マニュアルを作って慎重に行うようにしているわけでございます。
     私は、検察官の抗告について何らかの制限が必要だと思いますが、大臣の見解を伺います。
  • 小泉国務大臣
     既に確定判決があり、そして、法的安定性がそれにより生じている、多くの国民がまたその安定性を前提に生活をし活動する、そういうベーシックな法秩序というものがまずあって、その上に救済の必要性、これも本当に重たいものがあります。本当に重要なものだと思いますが、やり直しをしていく、法的安定性を乗り越えていく、裁判のやり直しをする、そのことが、再審開始事由として、開始できる項目として規定されているわけであります。
     この再審開始事由がないにもかかわらず再審決定が行われた場合には、違法、不当な再審開始決定となるわけでありますけれども、何が起こるかというと、確定判決の軽視。しかるべき手続を踏んで、不服申立ても含めて手続を踏んで、そして裁判のやり直し、再審の正当性を判断するというところを踏みながら、確定判決というものを乗り越えていく、そういう手続を踏むことになっております。
     この検察官による不服の申立て、よく議論の対象になりますけれども、公益の代表者、法的安定性という公益をしょっている、私は、公益の代表者だと思います。そういうものを省いてしまって進めば、確定判決の軽視ということになることも我々は忘れてはならないと思います。
     そういう意味で、検討は必要でありますが、慎重な検討が必要だというふうに申し上げているわけであります。
  • 稲田委員
     今大臣がおっしゃった、手続を踏んでなんですけれども、手続の規定がないから問題なんです。全て、裁判官の広い裁量が認められているので、裁判官次第、裁判官がいい裁判官であればしっかりと証拠開示もやってくれるけれども、そうでなければ長年放置されるということなんです。
     また、法的安定性ということをおっしゃいましたけれども、刑訴の四百三十五条に、再審の請求は、その有罪の確定判決を受けた者の利益のためにすると書いてあるわけでありまして、再審というのは無実の人の救済のためにあるということを考えますと、法的安定性ということを言うと、それはもう有罪の維持そのものとなり、私は法の趣旨には合致していないと思います。
     さらに、公益の代表性とおっしゃるんですけれども、もう再審請求手続で検察官は当事者ではありません。公益の代表性と言うのであれば、無実の人を救済するというのが公益の代表性なわけであります。
     少なくとも、機械的に即時抗告、特別抗告を申し立てるということはやるべきではないし、また、先ほどの袴田事件において、静岡地裁で十年前に捜査の違法性が、証拠の捏造が指摘をされて、そして著しく正義に反するとまで裁判官に言わせている再審開始決定について、それに対する抗告をするということが果たして公益の代表者と言えるのでしょうか。その結果、更にまた十年という長い年月が流れたということであります。
     私はやはり、今の大臣の御答弁、公益の代表者、さらに法的安定性の意味についてもう一度考えていただきたいし、また、韓国のように、法改正ではなくても、何か運用上の慎重さを求めるということを検討いただけないでしょうか。
  • 小泉国務大臣
     こういった御議論を国会でしていただくことに大変大きな価値があると思います。
     我々の方では、今、在り方協議会というものを動かしておりますので、動いていただいておりますので、こういった国会の議論がおのずと反映されるとは思いますが、重要な論点だと思いますので、そういった点についても、在り方協議会での議論から外れないように、その対象となるように、それは心がけていきたいというふうに思います。
  • 稲田委員
     大臣のリーダーシップに期待をしたいと思います。
     再審請求手続の進め方について明文の規定がないことによって、例えば、裁判所、弁護人、検察官による三者協議、これを全く開催せず、審理の進行を行わない、期日の指定もしない、弁護人が請求する事実の取調べも全く行わず、事前の告知もないまま、突如、再審請求棄却を決定するといった不当な審理手続が行われる場合もあります。例えば狭山事件の第三次再審は、二〇〇六年の申立てから十八年が経過しても最初の決定すら出ておりません。
     再審請求手続の審理の適正さ、公平性を担保するために、手続規定の整備、すなわちルールを決めるということですね、それは必要だと思いますが、いかがでしょうか。
  • 小泉国務大臣
     再審請求審の実情において、厳格な手続規定のマイナス面を指摘する、そういう議論もございます。そもそも、再審請求の実情においては、主張自体が失当である、適切性を欠くものや、同一の理由によって請求が繰り返されるものなども相当数存在するという指摘がございます。
     あくまで一般論ではありますけれども、そうした状況の下で、裁判所は個々の事案に応じて柔軟かつ適切な対応をしているというふうに認識をしております。
     再審請求審について統一的な取扱いを確保する観点から、詳細な手続規定を設けることについては、こうした裁判所による個々の事案に応じた柔軟かつ適切な対応が妨げられ、かえって手続の硬直化を招くおそれがあることも考慮に置いて、慎重な検討が必要だと思います。
  • 稲田委員
     今の大臣の御答弁はちょっと残念ですね。
     法務省は確かに、主張が入れられる見込みのないものやその見込みが極めて乏しいものが大半を占めているから広範な裁量を認めるべきだとおっしゃっているんですけれども、先ほど幾つか例を挙げたように、その結果、何十年も放置をされているということが起きているわけです。見込みのないものが多いからといって、手続保障が全く要らないということにはならないと思います。
     再審請求の審理手続を定めた規定は、刑訴法四百四十五条と規則二百八十六条のみです。裁判官の姿勢によって大きく異なるわけであります。私は、しっかりと手続を決めるべきだというふうに思います。
     裁判官の除斥、忌避についてお伺いします。
     確定判決、有罪判決をした、また再審請求に関与した裁判官がその後の再審請求の審理を担当することについて、除斥、忌避の規定を設けるべきだと思います。
     一旦有罪判決に関わった裁判官が再審請求手続に関与することは裁判の公平性を疑わせるもの、ここは規定を設けるべきだと思いますが、大臣の見解を伺います。
  • 小泉国務大臣
     現行刑事訴訟法の総則規定においては、例えば、裁判官が被害者である、あるいは裁判官が被告人又は被害者の親族であるときなど、不公平な裁判をするおそれが類型的に認められる客観的事情がある場合には、裁判官を職務の執行から除斥することとされております。また、裁判官が除斥されるべきとき、又は不公平な裁判をするおそれがあるときは、裁判官又は被告人は、裁判官を忌避することができることとされております。
     そして、刑事訴訟法のこの総則規定は、その性質に反しない限り再審請求審についても適用されることとされておりまして、こうした裁判官の除斥、忌避の規定も再審請求審について適用をされるわけでございます。
     それを超えて再審請求審に独自の除斥、忌避事由を設けることについては、その必要性、相当性について慎重な検討が必要であると考えております。
  • 稲田委員
     私は、再審請求手続においても規定を設けるべきだと思います。
     私は、大臣には本来の大臣らしく、検察目線ではなくて国民目線で、何が正義で何が公正なのか、固定観念にとらわれることなく、憲法の手続保障を再審手続の中でも実現するための法改正を推進していただきたいと思います。