令和6年4月9日 参議院法務委員会 古庄玄知議員による質問

人質司法問題についての裁判所の認識と保釈

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  • 古庄玄知君
     自民党の古庄です。
     前回に続きまして、人質司法についてお尋ねしたいと思いますが、今日は法務省ではなくて裁判所の方にお伺いしようというふうに考えています。
     人質司法という言葉があることについては裁判所も御認識と思いますけれども、この意味と、どういう点が問題なのか、それとともに、こういうふうに今の日本の刑事司法が人質司法というふうに言われていることについての裁判所の御見解、御認識をお伺いしたいと思います。
  • 最高裁判所長官代理者(吉崎佳弥君)
     お答え申し上げます。
     刑事事件における身柄拘束の運用につきまして、被疑者、被告人が自白するまで身柄拘束を続けるものとして、いわゆる人質司法と批判する御意見があることは承知してございますが、その所感について述べることにつきましては、個々の令状判断に対する評価にわたるおそれがあるため、最高裁判所の事務当局としてお答えすることは困難でございます。差し控えさせていただきたいと存じます。
  • 古庄玄知君
     人質司法があるということについては御存じなわけですね。
     この人質司法と言われる、要するに、自白をするまで身柄を人質に取ると、人質に取って自白を強要すると、こういうのが現在行われているということについて、裁判所の責任というか寄与、これがかなりあるんではないかなというふうに、私は長年実務を担当してきた立場からそういうふうな認識でありますけれども、それについて裁判所の方はお答えできないという、そういうお答えですか。
  • 最高裁判所長官代理者(吉崎佳弥君)
     繰り返しにはなりますけれども、先ほど申し上げた理由で、最高裁判所の事務当局としてお答えすることは困難でございます。差し控えさせていただきます。
  • 古庄玄知君
     刑事裁判の原則に無罪の推定ということがあるんですけれども、この点については裁判所とすればどういうふうに考えておられるんでしょうか。
  • 最高裁判所長官代理者(吉崎佳弥君)
     お答え申し上げます。
     最高裁判所の事務当局として法制度の意義にわたることについてお答えする立場にはございませんが、文献等によりますれば、無罪の推定とは、刑事手続において、裁判により有罪と認定されるまでは有罪として取り扱われることがないという刑事裁判の原則であると承知してございます。
  • 古庄玄知君
     弁護人の立場からすると、無罪の推定が現実は有罪の推定になっているのではないかと。
     それから、現実には、否認とか黙秘をすると罪証隠滅のおそれがあるということで保釈が出ないというのが現実として多く存在しているんですけれども、現実そういう実務が執り行われているということについて、裁判所はどういう認識を持っていらっしゃるでしょうか。
  • 最高裁判所長官代理者(吉崎佳弥君)
     お答え申し上げます。
     繰り返しで大変恐縮でございますけれども、今お申し越しの点について裁判所としてお答え、最高裁としてお答えすることは、裁判体の判断事項であるため困難でございます。
     ただ、一般論と申し上げておきます、一般論として申し上げますと、有罪の推定となっているかということにつきましては、裁判所として法律に定められた制度の中で、その法律の趣旨を踏まえつつ、中立公正な立場で適切な運用を図ることが重要であると認識してございます。
  • 古庄玄知君
     黙秘権というのは、これは憲法上保障された被疑者、被告人の権利ですね。刑事訴訟法上もこれがきちんと規定されていますけれども、こういう憲法上あるいは刑事訴訟法上の被疑者、被告人の権利というのが現実においてはないがしろにされてしまっているんじゃないかというふうに思うんですけれども、その点に関する裁判所の御見解はどうでしょうか。
  • 最高裁判所長官代理者(吉崎佳弥君)
     お答え申し上げます。
     これも繰り返しでございますが、個々の事件の裁判体の判断事項について、及ぶことについてまでお答えすることは困難でございますが、一般論として申し上げれば、被告人が事実を否認などしていることのみによって罪証隠滅のおそれなどが認められるものではなく、それを含めた事案ごとの事情を適切に勘案することになるものと承知してございます。
  • 古庄玄知君
     これ通告に入っていないんですけれども、現場で令状担当の部がありますよね。これは大体、何年以下の裁判官が担当していますか。あるいは、司法研修所を出て、まだ一年、二年、そういう現場をほとんど知らない裁判官も令状審査を担当している、これが現実ではないでしょうか。
  • 最高裁判所長官代理者(吉崎佳弥君)
     お答え申し上げます。
     突然の御質問でして、こちら、今現在特に統計等は持ち合わせてございませんけれども、私の知識で申し上げますと、令状部が部として構成されている庁もあれば、持ち回りで裁判官が令状を担当して、令状処理を担当しているケースもございます。そして、個々の裁判官の年限につきましては、これは様々であると認識してございます。
  • 古庄玄知君
     では、今度、保釈についてお伺いさせてもらいたいと思います。
     刑訴法の八十九条は、保釈の請求があったときは、次の場合を除いては、これを許さなければならないということで必要的保釈を規定しておりますが、これは保釈するのが原則であると、こういう理解でよろしいですか。
  • 最高裁判所長官代理者(吉崎佳弥君)
     お答え申し上げます。
     お申し越しの刑事訴訟法八十九条は、必要的保釈を規定している条文でございます。まず、保釈の、失礼しました、法律の解釈にわたることについて、最高裁判所の事務当局としてお答えすることは差し控えざるを得ませんが、一般的に文献等によりますれば、被告人は第一審の有罪判決があるまでは無罪の推定を受けているため、適法な保釈請求があった場合には、刑事訴訟法八十九条の一号から六号に規定する事由がある場合を除いて必ず保釈をしなければならないとされているものと承知しております。
  • 古庄玄知君
     そうすると、八十九条の四号に、必要的保釈の除外事由として、被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき、これは保釈を認めなくてもいいと、こういうふうになっていますが、そうすると、この相当の理由というのは緩やかに解していいんでしょうか、それとも例外事由なので厳しく厳格に考えなければならないというふうに捉えるべきなんでしょうか。これ、法律の一般的な解釈の話で結構なんですけど、お答えいただけますでしょうか。
  • 最高裁判所長官代理者(吉崎佳弥君)
     お答え申し上げます。
     法律の解釈にわたることにつきまして、最高裁判所の事務当局としてお答えすることは差し控えさせていただきたいと存じます。
     なお、文献等によりますれば、お申し越しの刑事訴訟法八十九条四号の被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるときとは、証拠に対して不正な働きかけを行い、公判を紛糾させたり、ひいては終局的判断を誤らせたりする具体的な蓋然性があることをいうとされていると承知しております。
  • 古庄玄知君
     令状主義というのがありますよね。この令状主義というのはどういうことでしょうか。
  • 最高裁判所長官代理者(吉崎佳弥君)
     こちらも突然の御質問で、正しいワーディングについてはそらんじておりませんけれども、身柄の拘束に関して、等に関して令状の発付が必要とされているということを意味しているものと承知しております。
  • 古庄玄知君
     要するに、被疑者、被告人の身柄の拘束に当たっては、裁判所の方が令状を審査した上で拘束する必要があるのかないのかを判断すると、それが令状主義ですね。
     このテーマである人質司法については、裁判所が極めて緩やかに令状を発付している。そして、保釈については、保釈するのが原則であって、罪証隠滅のおそれは極めて厳格に解さなければならないのを極めて緩く解していて、検察庁にお墨付きを与えるような運用がされている、これが人質司法と言われるゆえんではないかなと、弁護側とすればそういうふうに思っているんですけれども。そうなると、人質司法と言われるそれは、検察庁に対する言葉であると同時に、むしろそれ以上、検察庁を抑制する立場にある裁判所に対する言葉でないか、あるいは裁判所も人質司法に大きく貢献しているのではないかというふうに我々は思っているところです。
     私が、うちの事務所が実際にやった無罪判決が十か月目に出た事件がありましたが、八か月間ずっと身柄拘束されていました。八か月後に公判をやって、証拠調べをやって、恐らくその時点で裁判官が無罪の心証を持ったと思うんですが、八か月たってからようやく保釈が認められました。
     要は、心証を取る前の段階は、もう検察官が逮捕、検察官がもう起訴している以上は有罪であると、そういう心証を取っていて、無罪の推定ではなく、これは有罪の推定を取っていたんではないか、それが現場の感覚であるというふうに我々は思っております。
     そして、我々現場の弁護人にしても、否認をしたり黙秘をしていると、ああ、それはもう保釈は無理だなというふうに諦めるところがあるんですね。そうすると、やっぱりこれは、弁護人もこの人質司法に加担しているところがあるのかなと。幾ら無理でも何度も何度も保釈の請求をして、それに対して争わないといけないかなという自戒の、自戒の意味も込めて人質司法ということを考えたいというふうに思っております。
     我々とすれば、検察庁が幾ら身柄を取ろうとしても、あるいは身柄を取ったとしても、最後は裁判所が救ってくれる、最後は裁判官がいるんだと、こういうふうな刑事司法であってもらいたいのですが、現実は、裁判所は検察庁を追随して、検察庁の後ろ盾になっている。これが現実であって、最後は裁判所が守ってくれるというふうに言えないところが非常に残念であるというふうに思っています。
     それをもって、私の質問時間が来ましたので、これで終わりたいと思います。ありがとうございました。