IPJが支援している今西事件の当事者である今西貴大さんを甲南大学にお招きし、講演をしていただきました。
今西事件とは、今西さんが当時2歳の娘に暴行を加え、死亡させたなどとして起訴された事件です。今西さんは控訴審の終盤で保釈されるまで、約5年半にわたり大阪拘置所に勾留されましたが、その後2024年11月28日に大阪高裁で逆転無罪判決になりました。
講演では事件から逮捕・勾留、そして懲役12年の有罪判決を受けた第一審、長期勾留を経て控訴審で逆転無罪に至るまでの経緯や、当時の心境についてお話しいただきました。
私が最も印象に残ったのは警察が当初から、本件が犯罪事件であり、今西さんが犯人であると決めつけて捜査を進めていた点です。警察は自白を引き出すために23日間にもわたる取り調べを行い、原則1日8時間のはずが、朝9時から夜9時までの12時間に及ぶ日ばかりだったそうです。今西さんは「黙秘をするべき」ということを知っていたため、毅然とした態度を貫きましたが、私だったらその圧力に耐えられず、自白をしてしまっていたかもしれません。そんな中でも自分を保ち続けた今西さんは強い方だなと思いました。
私は今西さんが一審で有罪判決を受けた背景には、「正義」の捉え方の違いや、日本の刑事司法に内在する様々な問題点が影響していると感じました。例えば、警察にとっての「正義」とは、「犯人を捕まえること」かもしれません。今西さんが亡くなった娘と血縁関係がなかったことや、当時警察が虐待捜査に力を入れていたという状況から、「虐待をしたに違いない」という偏った先入観が働き、早い段階で本件が犯罪事件であり、今西さんが犯人であると決めつけてしまったことがえん罪の一因ではないかと思います。
また、検察が起訴に踏み切った際、本当に虐待がなかった可能性を十分に検討したのか疑問が残ります。日本では、起訴されると99.9%の確率で有罪になると言われています。そのような状況で、もしも検察の判断にバイアスがかかっていたとすれば、極めて危険なことです。加えて、SBS理論の科学的妥当性に問題があることが、当時もっと注目されているべきだったのではないかとも感じました。裁判所に責任はないのでしょうか?
今西さんの講義は、えん罪の恐ろしさと、それに立ち向かう強さの両方を教えてくれました。貴重なお話を聞くことができ、本当に学びの多い時間となりました。
(甲南大学3回生Y・F)