甲南大学では、約90名の学生がIPJのボランティアとして活動しています。学生らは勉強会や広報などのパートに分かれてそれぞれ活動していますが、勉強会に参加する学生らの一部が、このたび甲南高校で高校3年生とえん罪事件のワークショップを実施しました。
参加したのは、1、2回生を中心とするグループです。現在IPJが支援している今西貴大さんの事件を題材にしました。学生らは、講義がない時間に集まって一審の判決を熟読したり、弁護団のお話を聞いたり、大阪拘置所にいる今西さんに会いに行ったりするなどして、事件に関する学びを深めてきました。
ワークショップは甲南高校の「法学入門」(50分×2コマ)の授業で実施されました。前週の同じ授業をIPJ副代表の笹倉香奈が担当し、刑事裁判の鉄則である「疑わしきは被告人の利益に」や「無罪推定の原則」、そしてSBS(揺さぶられっこ症候群)やAHT(虐待による乳幼児頭部外傷)をめぐる最近の動向について高校生に向けてお話ししたあと、高校生には翌週に向けて大学生からの「宿題」が課せられました。宿題は、今西貴大さんの事件に関するいくつかの記事を読んだうえで、事件について基礎的なことを確認してくる、というものでした。
大学生によるワークショップの当日。まずは宿題の答え合わせをしながら大阪地裁での一審判決の内容を確認しました。そして、控訴審における検察官・被告人側のそれぞれの主張を、学生らがわかりやすく解説していきます。高校生たちはグループごとに、刑事裁判の鉄則を思い出しながら、本件についてどのような「疑い」があるか、どういう判決を言い渡すべきかを大学生と一緒に議論しました。
最後に大学生から、今西事件における身体拘束の長期化の問題やメディアの報道の問題、刑事事件について考えるときの姿勢についても言及がありました。今西事件というえん罪事件を通して、「法」や「社会」について大学生と高校生が一緒になって考えることができました。
参加した大学生からの感想を、ご紹介します。
●清水間菜赤(2回生)
高校生にグループを作ってもらい、この事件は有罪か無罪かどちらだと思うかを話し合ってもらう際に、「『疑わしきは被告人の利益に』って、最強やん!」と高校生が言っていたことが、印象的でした。「『この被告人は有罪だ』と確信できないのであれば、無罪にしないといけないよ」と伝えた時の返答だったのですが、改めて、完全に検察が立証できていないこの事件において一審では有罪判決が出ていることに、疑問を感じました。
また、授業をするにあたって、やはり医学的な証拠は難しいなと感じました。今回は相手が高校生ということで、『できる限り分かりやすく説明する』ということを目指したのですが、これがかなり大変でした。
ただ、この事件を世間に広く知ってもらうためには、できる限り分かりやすく、色んな人に伝え、知ってもらうということが大切だと思います。今回はその練習として、とても有意義な経験になったと感じました。
●西村友希(1回生)
「甲南法学部に行くので待っていてください!」
帰り際、高校生がこのように声をかけてくれた瞬間、私の中で今回の講義が成功だったと実感しました。もちろん、反省点も多々ありますが、大学の講義の空きコマを使って話し合ったり、本番数日前の夜にZOOMで最終確認を行ったりといった時間すべてが、冤罪を知ってもらうことに繋がっていたのだと身にしみて感じました。また、真剣に今西事件について勉強する高校生の姿に、私も頑張らなければと奮起させられる思いでした。私たち学生ができることは小さなことかもしれませんが、このような小さな活動でも、冤罪をなくす一助となるのだとしたら、こんなに嬉しいことはありません。
●栗岡周平(1回生)
甲南高校で授業をするにあたって今西事件について学び、現在の刑事裁判に様々な問題があるということを改めて知れました。そして、その実態があまり知られてないなと思いました。授業中の時間でその問題について理解してもらえるように説明すれば良いかを考えることは難しかったです。しかし、授業の中で高校生に話を聞いた時、授業の前と後で事件に対する印象や考え方が変わったと言ってくれる生徒も多く、良い授業にすることができたと思いました。事件について学び、理解してもらおうと考えたこと、そして実際に高校生に理解してもらえたということはとても良い経験になったと思います。この経験を今後の活動にも活かしていきたいです。