【コラム】映画『Winny』に登場する警察裏金問題を告発した仙波敏郎さんにインタビューしました!

映画『Winny』の中で警察裏金問題を告発した仙波敏郎・元巡査部長とお会いして”警察の不正行為と冤罪”についてお話を聞いてきました。

映画『Winny』で描かれた仙波さんに関する出来事は実際に起きたことでした。また、近時では、袴田事件の再審開始が確定したところ、静岡地裁決定と差し戻し後の東京高裁決定は捜査機関によって証拠がねつ造された可能性を認定しています。裏金問題のような捜査機関の不祥事と、証拠のねつ造のような捜査機関の不正行為は関係があるのでしょうか。また、警察内部から見て、どのようにして冤罪が生まれ、その再発が予防されるのでしょうか。仙波さんにこのような疑問を伺ってみました。

質問1:告発された裏金問題は冤罪と関係があるのでしょうか?

仙波さん:警察は、縦割り組織であることや何をしても許されていたこと、給料等の待遇が良くないことといった、体質的・組織的な問題から、裏金を作るようになりました。そのため、組織全体で不正に対する意識が緩んでいたと思います。もっとも、裏金は捜査協力費などの名目で作るので、基本的には犯人を検挙しなければ裏金を作ることができません。このような”正義の追及”というよりも”犯人の検挙”を目標として捉える意識が冤罪につながっていたと思います。例えば、警察は犯罪摘発の強化月間を設けて検挙件数を全国で競わせることもしておりますが、このようなノルマ主義の意識は危険だと思っております。また、一旦裏金を作って捜査協力費を多く支出している以上、犯人が間違えていたとは到底言えなくなってしまうという問題もあると思います。

質問2:警察内部では、どのようにして冤罪が生まれるのでしょうか?

仙波さん:捜査会議で素行不良者などが犯人として目星がつけられてしまうと、全員がそれに向かって捜査が行われてしまいます。上司らが捜査会議で決めた方針には逆らえません。冤罪ではないかと上司に進言しても「いらんこというな」と言われてしまい、無罪の証拠も見過ごされてしまいます。

質問3:冤罪が起きた時、警察内部ではそれが問題視されないのでしょうか?

仙波さん:誤認逮捕はとても恥ずかしいことだとされています。しかし、警察官はあくまで「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」に基づいて逮捕しています。これは有罪よりも低いハードルですので、「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」が裁判所に認められた以上、警察として法的に間違ったことはしていないという認識になってしまいます。警察は、逮捕された人がその後無罪になったとしても、検察官や裁判官の責任だし、疑われるような人が悪いと思ってしまうのです。なので、警察内部ではなかなか冤罪が問題視されず、誤認逮捕された人に対しても謝罪しないということになってしまいます。これは問題だと思います。

質問4:最近、袴田事件の再審開始が確定しましたが、警察官が証拠をねつ造した可能性が示唆されました。この袴田事件についてはどう思われますか?

仙波さん:私も袴田事件では警察が証拠をねつ造したと思っています。袴田さんが死刑判決を下されながら何十年間も執行されなかったのは、証拠ねつ造の疑義があり、それを国も分かっていたからだと思います。

質問5:裏金問題や冤罪を防ぐにはどうすればよいのでしょうか。

仙波さん:この問題に正解はないと思っております。私自身、「裏金作りに加担しなければトップになれないなら、トップにならなくていい」と決断して告発・退職したので、制度面の改革等に貢献することができなかったという後悔もあります。まず、警察の待遇改善は必要不可欠です。警察も人間ですから、全員に生活があります。しかし、給料は低く、上司に評価されなければ転勤で不利に扱われます。生活が最低限保障されていなければ、正義を追求することは難しいのかもしれません。昇任試験の不正も防止して、適切な捜査指揮のできる人間を管理職に登用する仕組みも整えなければなりません。このように、待遇や人事面を改善して、警察官がちゃんと正義を追求できるようになり、正義感のある良い人を採用できるようにしなければなりません。また、取調べの可視化は捜査実務に大きな影響を及ぼしたと思います。録音録画されている場面では違法なことができませんから、可視化の範囲を全ての取調べ・事情聴取に拡大すべきだと思います。同じように、職務質問をするにあたってボディカメラを着用することも良いアイディアだと思います。このような捜査活動の記録化は、警察にとっても自身を守ってくれる制度になるはずです。

以上、仙波さんへのインタビューでした。”警察の不正行為と冤罪”について、元警察官の視点を教えていただくことができました。刑事司法は断片化されていると言われており、逮捕された人がその後無罪になったとしても自分たちの問題として扱われないということも、大きな構造的問題を示唆していると思います。近年では警察も冤罪事件の捜査過程の検証結果を公表することがありますが、これまで氷見事件と志布志事件足利事件、パソコン遠隔操作事件と4件のみであり、その原因はこのような当事者意識の問題にあるのかもしれません。

仙波さんは、警察の組織的・体質的な問題を批判しながらも、本当に正義を追求できる組織になってほしいという想いから発言しているように見えました。仙波さんのように正義感のある警察官が増えて、不正行為や冤罪が1件でも減るといいなと思います。仙波さん、どうもありがとうございました!