刑訴法の再審手続の改正の必要
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- 稲田委員
自由民主党の稲田朋美です。
本日は、再審法と憲法について発言します。
昨年三月に東京高裁で再審開始決定が確定した袴田事件は、現在、再審公判中です。既に事件発生から五十七年、第一次再審請求から四十三年、最初の再審開始決定から十年が経過しています。袴田さんが再審無罪の判決をかち得たとしても、六十年近くにも及ぶ審理に要した時間は二度と戻ってこないのです。冤罪で一人の人の人生が丸ごと奪われるようなことがあってはならない。これは国家権力による、憲法十三条に定めた個人の尊厳と幸福追求権の侵害と言っても過言ではありません。
日本国憲法は、三十一条以下、刑事訴訟における手続保障について、諸外国の憲法に例を見ない詳細な規定を置き、刑事手続の適正を憲法上の要請としています。これらの規定は、戦前の刑事手続の濫用や人権弾圧の反省の下、人権保障と公正な裁判の実現を憲法上目指したものです。
ところが、現在、刑事訴訟法における再審についての規定は、一九二二年に制定した大正時代のものを日本憲法下でもほぼそのまま維持しています。唯一、憲法三十九条において二重の禁止規定を定めたことから、戦前認められていた不利益再審を明確に禁止しましたが、それ以外は全く改正されず、取り残されている。すなわち、再審手続に現行憲法の精神が生かされていないのです。
例えば、再審手続における取調べ、証拠開示、検証などについて、何ら手続規定がなく、裁判官の広範な裁量に委ねられています。その結果、無罪を示す重要な証拠が捜査段階で隠されていても、開示されるか否かは裁判官の意向次第、再審請求審において重要な新証拠が埋もれたまま、再審無罪まで気が遠くなるような長い年月を費やし、甚だしい人権侵害を生じさせているのです。
袴田事件において開示された古い新証拠が再審請求審に提出されたのは、死刑判決から何と三十年後であり、再審開始決定をした裁判所は、捜査の違法性と証拠捏造可能性を指摘し、著しく正義に反するとして、袴田さんを釈放したのです。
二〇二〇年に再審無罪が確定した湖東事件では、第二次再審の即時抗告審まで一点の証拠開示も実現せず、再審公判で多数の証拠が開示され、捜査機関が隠していた無罪を裏づける証拠が明らかになりました。既に、二十四歳であった女性は四十歳、刑の執行も終わり、懲役十二年の刑を満期服役した後の再審無罪だったのです。
再審手続における証拠開示等は裁判官の意識、熱意次第、再審格差という言葉も生まれるほどであり、袴田事件のように、三十年以上一点の証拠開示も許されず、弁護人が繰り返し行った証拠開示請求を検察官も裁判官も無視し続けることができる現行法の不備は明らかです。
更に問題なのは、せっかく再審開始決定が出ても、検察官は機械的ともいうべき抗告を行い、更にその確定までに長期間が費やされています。
大崎事件では、過去三回も再審開始決定がなされながらも、検察官の抗告により再審開始が阻まれ、最高裁も、検察官の特別抗告に理由がないとしながら、地裁、高裁の再審開始決定を著しく正義に反するとして取り消すという異例の事態になっています。疑わしきは被告人の利益にという刑事司法の大原則は再審においても適用されるという白鳥決定に反するものと言わざるを得ません。もはや刑訴法の再審手続の改正についての立法事実は明らかです。
この状況を見て見ぬふりをしていることは、憲法三十一条の手続保障、憲法三十七条一項の迅速な裁判を受ける権利、そして憲法十三条の個人の尊厳を侵害し、立法不作為が憲法違反になっていると言っても過言ではありません。立法府に身を置く者として、憲法の精神が法制度に反映されているかどうか、立法不作為によって憲法違反を許容していないかどうかという観点を常に問いかけ、その責務を果たすべきだと考えます。
以上です。