袴田事件に関する総長談話
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- 仁比聡平君
袴田無罪判決に対する検事総長談話についてお尋ねをします。
今日、古庄議員それから福島みずほ議員と、与野党を超えて、この検事総長談話は一体何だと、人権侵害であり許されず、撤回すべきだと。
私も全く同じ思いなんですが、九月二十六日の歴史的な静岡地裁の無罪判決の核心は何かと。この判決は、みそだるから発見したとされる五点の衣類などの検察が袴田さんを犯人だと主張し続けてきた証拠には、三つの捏造があるとしました。その上で、それは捜査機関によって捏造されたものだと厳しく批判したんですね。この判決というのは袴田事件の核心の争点です。
ですから、検察は、今日いきなりその争点について物を言っているわけじゃない。特に、第二次請求審、再審請求審というのは二〇〇八年に申し立てられて、二〇一〇年、つまり今から十四年前に実質審理が始まっています。そこで証拠開示が争われるということになるわけですが、それを経て、静岡地裁の再審開始決定が行われたのは二〇一四年、つまり十年前のことですね。この再審開始決定に対して、不当にも検察が上訴で争うという態度に出たからこそ、その後十年にわたって東京高裁、最高裁、差戻しの東京高裁、そして今回の再審公判と。言ってみれば、検察は嫌になるほど争い続けてきたじゃないですか。そのことによって、袴田さんやお姉さんのひで子さんを苦しめ続けてきたじゃないですか。
弁護団や支援運動は、その検察の不当な人権侵害に対して徹底して闘ってきました。だから、この五点の衣類は捜査機関による捏造ではないかというこの争点、これはもう国民みんなが知るところの大争点なんですよ。その核心的な争点に決着を付けたのが無罪判決だと思います。検察が控訴せず無罪が確定したと、それは当然のことなんですね。
ところが、検事総長が出したのがこの検事総長談話。
お手元にあるとおり、再審開始を決定した令和五年三月の東京高裁決定には重大な事実誤認があるとか、被告人が犯人であることの立証は可能であるとか、本判決が五点の衣類を捜査機関の捏造と断じたことには強い不満を抱かざるを得ませんとか、そして、本判決はその理由中に多くの問題を含む到底承服できないものである、こういう認識を検事総長の談話として示しているんですね。
先ほどの議論の中で、判決の既判力が及ばないのではないかというような弁解を刑事局長されたけれども、そういう話じゃないでしょうということですよ。弁護団声明で、これは、控訴はやめておくが巖さんを冤罪とは考えていないということであり、到底許し難いものであると猛然と抗議をしていますけれども、そのとおりだと思います。
私がただしたいのは、これは、検察が組織として判決には従わないと、これだけの大争点で、核心部分で大論争をやってきて、主張、立証を尽くして、何度も何度もですよ、この五点の衣類は有罪立証の証拠としては使えない、あるいは捜査の機関による捏造だという判断が繰り返されてきた挙げ句、もうこれ以上争えないと検察は立ち至ったにもかかわらず、組織としてその裁判には従わない、判決には従わないと宣言しているに等しいでしょう。裁判の上に我ありと、それは検察が組織として司法の独立、裁判制度を否定するということではありませんか。
刑事局長に聞いてもいろいろ弁解するだけだと思うから、私、鈴木大臣にその認識聞きたいんですよ。この検事総長の談話、大臣は検察活動のことだから私言えないみたいなことを今日言ってきたけれども、あるいは個別事件に関わることだけどと言ってきたけれども、そうじゃないでしょう。
これまで、戦後、検事総長談話が発せられたというのは今回が初めてではないようです。戦後直後の造船疑獄事件で、大物政治家を逮捕して取り調べる必要があるとした検察に対して、時の法務大臣が指揮権を発動してそれを止めたと、それに対して、検察のあるべき姿勢を示したなどという談話はあるんですよね。あるいは、検察官が非違行為を行った、それに対して国民にわびる、信頼を回復するというための検事総長談話というのもあるようですが、けれど、これだけ争い続けて得られた無罪判決に対して、その根幹を否定するような検事総長談話なんてないですよ。鈴木大臣、あり得ないと思いませんか。 - 国務大臣(鈴木馨祐君)
改めて、大変恐縮でございますけれども、検察当局が談話を発表したということ、そして、その内容等の本判決への対応に関する事柄、大変恐縮ではございますけれども、個別事件における検察当局の活動に関わるものでございますので、法務大臣としての所見をこちらで述べることは差し控えたいと思っております。
若干繰り返しになって恐縮でございますけれども、その上で申し上げれば、この検事総長談話、検察当局において、袴田さんが無罪であると、その判決の結果を受け入れ、そうした上で、不控訴の判断に関して説明をするために発表したものであって、不控訴という判断を行った理由や過程を説明するために必要な範囲で判決内容の一部に言及したものでありまして、司法判断を軽視すると、そういった意図のものではないと承知をしております。 - 仁比聡平君
先ほど来の議論で、他の様々な事件に影響があるとか、同種事案の取組に差し障るとかいうような発言も局長からあったかと思いますけど、それは、検察がこうした事態に対して、この袴田事件に対する不満と同じような姿勢でこれからも事件に臨むということを言っているに等しいですよ。あり得ないことだと思います。
加えて、長期間にわたって法的地位が不安定な状態に置いたと、大臣も謝罪めいて言いますけれども、争い続けたのは検察組織でしょう。検察官が争い続けたから長期間不安定な状況に袴田さんは置かれたんでしょう。
袴田事件のみならず、相次ぐ冤罪、再審事件が今日も起こっています。その根本にあるのは、長期の身柄拘束、それを利用した自白の強要、捜査機関が獲得した虚偽自白に沿う証拠の捏造や、それに反する被疑者、被告人有利の証拠、無罪の証拠は徹底して隠す。しかも、そうした検察、捜査機関の不当な捜査や公判を軽視する。結果、誤った裁判が繰り返されてきたと。そういう日本の刑事司法の根本問題にあるんじゃないですか。私は、その原因を検証し、全裁判所、司法関係者の共通認識にしなければ、同じように冤罪が繰り返されると思います。
検察組織が組織として猛省をするとともに、誤った裁判を正すという立場での検証、そして再審法の改正、大臣、行うべきじゃありませんか。 - 国務大臣(鈴木馨祐君)
検察の活動、これは当然のことながら、国民の皆様方の信頼、これに基づいてなければならないと思いますし、様々いろいろな御批判がある状況、このことも認識をしております。そういった中で、まさにそうした規律ということをしっかりと、それぞれ検察官がしっかりと肝に銘じてきちんと進めていくことが肝要だと思っております。
それ以上のことについてこの場で述べさせていただくことは控えさせていただきたいと思います。 - 仁比聡平君
古庄議員が指摘をされていましたけど、検察が秋霜烈日という構えを、魂を貫いて活動していたら、国民の信頼をなんて言わなくたって国民は信頼しますよ。国民の不信が突き上げているのは、検察、日本の捜査そのもの、刑事司法そのものが本来は人権保障の最後のとりでたるべきなのに、そうなっていないからなのではないですか。個別事件で、個別の関係者の不見識で引き起こされているというものではない。本来、人権保障の最後のとりでたるべき司法が国際人権水準と憲法を生かした役割を果たしていないからだと私は深く認識する必要があると思います。こんな人権後進国であっていいはずがない。