令和6年4月22日 衆議院予算委員会 井出庸生議員による質問

再審制度についての法務省・裁判所の考え

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  • 井出委員
     そうしましたら、次に、裁判、再審法のことについて今日は取り上げたいというふうに思います。
     袴田事件という有名な事件がございます。一九六六年、静岡県で一家四人が殺害をされた事件。事件発生から五十七年、死刑の確定から四十三年がたって、ようやく、袴田さんに、昨年三月、再審が認められ、今年、間もなく、来月、再審公判が結審をし、今年の間には判決が出ると言われております。
     いろいろな、数十年にわたって紆余曲折がございましたが、この事件で象徴的なのは、袴田さんの無罪を示す方向の証拠が、死刑の確定から三十年後、第二次の再審請求で三十年たってようやく出てきたというところが大きな問題であり、ほかの著名な再審事件でもこうして数十年たって無罪方向を示す証拠が出てきたということは少なからずありましたので、今日は再審の証拠開示について聞きたいと思います。
     その前に、法務省にまず伺いたいと思いますが、私は、人間にパーフェクト、完全はないと思います。間違いはあると思いますし、それは、検察官、裁判官、どんなに優秀な方であれ、誤りはあるんだろうと思います。したがって、検察や裁判所といった組織で捉えた場合も誤りというものはあり得るんだろうと思っています。
     一度裁判で確定した判決が誤っていた可能性が高まった場合、新たな事実が出てきた場合、冤罪から速やかに救済を図る再審制度というものは極めて重要であり、私は、こうした人間の不完全性をただすという意味でも、再審制度というものは非常に重要である、充実したものでなければならないと思っておりますが、法務省の見解を伺います。
  • 松下政府参考人
     お答えいたします。
     我が国の刑事訴訟手続におきましては、様々な手厚い手続保障の下、中立公平な立場にある裁判所において審理が尽くされた上で、合理的な疑いを入れない程度の立証がなされたと裁判所が判断された場合にのみ有罪判決が言い渡されることとなります。そして、その判決に不服があれば上級審の判断を求めることも可能であり、三審制の下、慎重な手続を経た上で判決が確定することとなります。
     再審制度は、このような手続保障と三審制の下で確定した有罪判決について、なお事実認定の不当などがあった場合にこれを是正し、有罪の言渡しを受けた者を救済するための非常救済手続でございます。
     処罰されるべきでない者が処罰されることがあってはならないのは当然のことでございまして、万が一そのようなことが生じた場合に救済するための制度として、再審制度は重要な意義を有するものであると考えております。
  • 井出委員
     最高裁にも一言伺っておきたいと思います。
     裁判官であれ、人間ですから、間違いはあり得るんだろうと思いますし、実際、今、袴田事件は再審公判の終盤に来ておりますが、これまでに死刑事件でいえば、四つの死刑事件が再審無罪になった。先ほど申し上げましたが、特に証拠ですね。長年にわたってようやく提出をされたもの、捜査機関が偶然発見したとか、そうした釈明、職責が果たして果たされてきたのかと疑わざるを得ないようなケースが少なからずありましたが、最高裁は再審制度についてどのように考えているか、伺います。
  • 吉崎最高裁判所長官代理者
     お答え申し上げます。
     最高裁判所の事務当局としまして、法制度のありようについてお答えする立場にはないため、その点のお答えは差し控えさせていただきます。
  • 井出委員 法務省においても裁判所においても、もう少し、人間は完全ではない、誤りはあり得るんだ、そういう本当に初歩的なところから認識を持ってこの問題に取り組んでいただきたいと思います。

再審請求手続における証拠開示に関する規定

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  • 井出委員
     先ほど法務省は、通常審の裁判について様々な手厚い手続保障があるというようなことをおっしゃっていて、実際様々なものがございます。公判期日の指定ですとか事実の取調べ、それから証拠開示。
     この証拠開示については、再審請求手続において何か明示的な規定はございますでしょうか。
  • 松下政府参考人
     お答えいたします。
     再審手続におきましては、裁判所は事実の取調べができると規定されておりまして、刑事訴訟法には第四編、再審の編に様々な規定がございますけれども、それのほかに、刑事訴訟法の第一編、総則の規定も、その性質に反しない限りは適用されるということとなっております。
  • 井出委員
     証拠の開示に関する規定があるかないかについては答弁がなかったわけですけれども、すなわち、答弁もないけれども条文もないということでございます。
     それから、続けて伺いますが、証拠の開示が、存在するものが何十年もたって後から出てくる、結果として再審の手続にウン十年という時間を要する、そこから本番の再審の裁判が始まる、こうした一連の経過というものは、憲法三十七条が保障する、公正で迅速な裁判を受けることを保障する憲法の理念に照らしてどう考えられるか、法務省に見解を伺います。
  • 松下政府参考人
     お答えいたします。
     再審請求につきましては、再審請求の実情を申し上げますと、主張自体が失当であるものや、同一の理由によって請求が繰り返されるものなども相当数存在するという指摘があると承知をしております。
     その上で、先ほど、事実の取調べができると申し上げましたけれども、事実の取調べの中には、証拠の取調べ、証拠物、証拠書類あるいは証人尋問といった規定も適用されるわけでございまして、そういった形で必要に応じて事実の取調べをした上で、裁判所において柔軟かつ適正な処理をされているものと認識をしております。
  • 井出委員
     これまでの再審公判著名事件の歴史的な事実が、憲法の保障する公正で迅速な裁判を受ける権利にかなっているかどうか、もう一度お答えください。
  • 松下政府参考人
     お答えいたします。
     再審請求審におきましては、裁判所が、有罪の確定判決を前提といたしまして、職権で再審事由の存否を判断するために必要な審理を行うこととなります。
     一般論として申し上げますと、再審請求審の手続が迅速に進められるということはもちろん重要でございまして、そのためには訴訟関係者が裁判所の訴訟運営にできる限り協力することが肝要であると思いますけれども、個々の再審請求審における審理期間につきましては、個別具体的な事案の内容ですとか、訴訟関係者から提出される主張、それから証拠の内容や量、提出時期などによって事件ごとに異なっておりまして、手続に要した期間の長短に関する評価を一概にお答えすることは困難であることを御理解いただきたいと思います。

再審請求手続に関する詳細な規定の整備の必要

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  • 井出委員
     今、裁判所の裁量においてきちっとやっているんだというような話がございましたが、再審に関する規定というものは、刑訴法の四十三条に、決定又は命令をする必要がある場合には事実の取調べをすることができるとあるんですね。
     一方で、通常審については本当に刑訴法で様々定められておりまして、今日の資料では公判前手続の三百十六条を少し持ってきましたが、ここでは、できる限り早期にこれを終結させるように努めなければならないとか、刑訴法の通常審の規定は、何々をしなければならないとか、職権でこれをすることができるとか、極めて、やらなきゃいけないこと、また裁判所の権限も明確になっている。(発言する者あり)
  • 小野寺委員長
     御静粛にお願いします。
  • 井出委員
     法務省は再審請求というものはいろいろ様々だと言うんですけれども、様々だからこそ、今は何もない規定をきちっと整備する必要があるんじゃないかと。
     私は、再審法の改正というものは、改正ではなくて、法整備の段階から始めなきゃいけないぐらいの条文の少なさだと思っていますが、その点いかがでしょうか。
  • 松下政府参考人
     お答えします。
     先ほども申し上げましたが、再審請求の実情につきましては、主張自体が失当であるものや、同一の理由によって請求が繰り返されるものなども相当数存在するという指摘があるものと承知をしております。
     その上で、あくまで一般論として申し上げると、再審請求を受けた裁判所は個々の事案に応じて柔軟かつ適切な対応をしているものと認識をしております。御指摘のように、再審請求審について詳細な手続規定を設けて、一律にそれに従った対応が義務づけられるということといたしますと、裁判所による個々の事案に応じた柔軟かつ適切な対応が妨げられ、かえって手続の硬直化を招くおそれがあることなどから、慎重な検討が必要であると考えております。
  • 井出委員
     通常審は様々規定がありますが、硬直化して裁判を妨げたことはあるんですか。
  • 松下政府参考人
     お答えいたします。
     通常審におきましては厳格な手続規定が設けられておりますけれども、これは、実体的真実の発見と、それから基本的な人権を保障しつつという刑事訴訟法の理念に照らして、適正に、かつ厳格な手続によって有罪を認定するために、きちんとした手続規定が設けられているということでございます。
     そうした手続規定の下で確定した有罪判決をなお覆す再審という手続において、通常審と同じレベルの厳格な手続を規定することについて、先ほどの課題といいますか問題点を御説明させていただいた次第でございます。
  • 井出委員
     少し法務大臣に伺いたいと思います。
     再審請求事件というものは様々なものがあるから柔軟な対応が必要なんだというようなことを刑事局長はおっしゃっていますが、様々なものがあるから条文を整備しなくていい、条文が極めて少なくていいという理由には全くならないと思いますし、適切に運用されているという答弁も繰り返しありましたが、過去の再審の事件を見れば結果として適切ではなかったものが少なからずありますので、今法務省が言っていることは法整備をしない理由にはならないと思いますが、その点を伺います。
  • 小泉国務大臣
     様々な案件があるというのは、その主張自体が失当ではないものとか、同じ理由で繰り返し再審を請求される方も大勢いらっしゃいます。それに対して、裁判所が職権主義で、これはもう前に却下していますよねとさばくわけですよね。手続が細かく決まっていれば全部その手続を踏む必要が出てまいりますけれども、裁判官が、これは前にやった案件、これは中身が失当だとさばける。全体としてのパフォーマンスがむしろ上がる要素もあります。
     ただ、先生が御指摘のように、手続法がなければ、今度は逆に、うんと延びてしまうということに対する歯止めが弱くなりますよね。その裏腹な関係というのが常にございます。
     だけれども、手続法が定められていないから、即それが遅滞につながっているということではありません。むしろ、遅滞を防ぐために職権主義でさばいていく、そういう仕組みを入れているところでございます。現状の御説明はそういうことでございます。
  • 井出委員
     裁判所がさばいていると。
     しかし、再審の裁判所の職権を認めている規定というものは、必要がある場合には事実の取調べをすることができるという文言なんですね。通常審の刑訴法のいろいろな規定においては、何々をしなければならないとか、職権で何々できる、何々命令できると、もっと強い文言がたくさん出てくるんですけれども。できると、しなければならないだけでも、大分違うと思うんです。
     本当に裁判所の裁量で適切にできてきたのか。それは、過去の少なくない再審著名事件を振り返れば、私は結論が出ていると思うんですけれども、本当に適切にできているんですか。
  • 小泉国務大臣
     様々な案件全て網羅的にチェックをしているわけではありませんが、確かに審理期間が延びて非常に長い期間かかっている事例があるのは事実でございますので、どうしてそういうことになったんだということをしっかりと法務省も突き詰めて分析し、検討し、原因を究明してそれに対応していくということはしっかり今取り組んでいるところです。
     今、刑事訴訟法の在り方協議会、ここで議論が始まりました。その議論も踏まえながら、我々もしっかりと取り組みたいと思っています。これは、平成二十八年成立の刑事訴訟法等一部改正法の附則、これの規定に基づいて、改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会を現に今開催しているわけです。昨年の秋からこの冬、春にかけてやっています。
     我々も事務方として、どうしてこんなに時間がかかるかということはやはり突き詰める必要があると思いますので、この在り方協議会の議論をしっかり踏まえつつ、内部的にもしっかりとそこは詰めた議論をしていきたいというふうに思っています。
  • 井出委員
     法務大臣は答弁書を持たないと大変いい答弁をされるなといつも思っております。法務省としてもそういう検証が必要であると思っているということを前段で述べられました。
     この問題に関係して、三月の十一日に超党派で議員連盟を設立して、少し取組をスタートさせております。
     その中で、四月にあった議論で、長期化の原因について、ある議員さんがそういう原因を検討したことがないのかというような話をしたときに、原因については一概に答えることができず、今後そうした検討、検証を行うことは予定していないと法務省はそのとき回答していたんですが、大臣は今、前段で、法務省として必要な検証はやるべきだというようなことをおっしゃっておりますが、法務大臣のおっしゃるとおりでよろしいですか。
  • 松下政府参考人
     お答えいたします。
     検証ということですけれども、一般的、抽象的にするということではなくて、個別の裁判において不当に長期化したということがあった場合には、それについてなぜなのかということを考えるのは必要なことであろうというふうに思っております。
     ただ、これまでの再審に関して、期間の長短だけで、長い、長期化している、不当であるということの御指摘については、必ずしも、その個々の事案について、事案の争点の多さですとか証拠の多さ、問題点の多さなどによって様々でありまして、一概にお答えすることはできないという趣旨で申し上げたことかなと思います。
  • 井出委員
     大臣に伺いたいんですが、事案の長短に応じて、いろいろあると。それは通常審でも、通常の裁判でも一緒だと思うんです。だからこそ、証拠開示とか公判前手続とか、憲法の三十七条で保障された迅速な裁判を受ける権利というものを、いろいろ法改正をやってきて。だから、今、いろいろあるから、柔軟で法改正しなくていいという趣旨なんですけれども、通常審の方はずっとその努力を重ねてきているわけですよ。再審請求で物が迅速に進んでいくような、権利がきちっと保障されるような法改正をしない理由というのは、私はないと思うんですね。
     その辺りをやはり率直に、その紙を置いて御答弁いただきたいと思います。
  • 小泉国務大臣
     すべからく、あらゆる制度は、人間のなせる業でありますから、そこに一〇〇%ということはないわけです。そして、その趣旨は我々も共有をしています。
     そして、それをただす方法でございます。法的安定性とのバランスというのが常にありますので、しっかりと手続を定め、また、運用をただしていくということは非常に重要な在り方だと思います。
     法制審で議論をまさに今しておりますが、証拠開示の在り方等についてしておりますが、事務局としては、じゃ、何でこんなに時間がかかる案件が出てくるのかということはしっかりと突き止めて、把握をして、そして、それをその次のステップに生かしていかなければ、全部法制審に任せっきりにするわけにもいかないと、私はそう思っています。私の責任において、そこはしっかりと突き止めていく努力をしたいと思っています。
  • 井出委員
     ありがとうございます。
     最後に、この件を総理に伺いたいと思います。
     時間が、特に証拠がずっと出てこない、中には出てきたものが捏造だったみたいなことも過去にはあるんですが、証拠があるものが出てこない、それによって時間がかかるというケースが少なからずあった。
     それは、人間は完全でない、我々も一〇〇%ではないということは、今法務大臣がおっしゃってくださいましたが、そういうものをきちっとただしていく、救済していくためにも、私は再審法の整備、再整備というものが必要だと思っています。人間は、どんなに優秀であっても、どんなに複数で突き詰めても、必ず間違いはある。その間違いが百件に一件、一万件に一件で、仮にその人の人生を狂わすとするのであれば、その救済手段というものは、裁判所とか人の裁量、職権ではなくて、きちっとした手続を定めるべきだと思います。
     その点について、岸田総理の見解をいただきたいと思います。
  • 岸田内閣総理大臣
     先ほど来のやり取りの中にも出ておりましたように、再審制度については様々な意見があるということでありますが、この問題については、人間である以上、間違いがあるという御指摘、これはそのとおりだと思いますが、確定判決による法的安定性の要請、そしてもう一つ、個々の事件における是正の必要性、この二つの調和、これをどこに求めるのか、こうした議論であると思います。
     そういった点から慎重に検討すべき課題であると思いますが、この問題について、先ほど法務大臣の答弁の中にも、現在、改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会を開催しているという答弁がありました。この中で再審請求審における証拠開示等についても協議が行われると聞いております。この協議会での議論を踏まえて、法務省において御指摘の点について適切に対応するものであると認識をしております。
  • 井出委員
     今日の質疑が法改正の第一歩になることを願って、また、私もそれに力を尽くしていくということをお話をして、質問を終わりたいと思います。
     どうもありがとうございました。