【人質司法】拘置所の医師「生きている間にはここから出られません」 角川歴彦氏のストーリー

※弁護人が聞き取った内容を記事にしています。

私は人質司法によって死の淵に瀕しました。

病院で持病の診察を受けたいと申し出ても認められず、2度も意識を失って倒れたのです。

拘置所の医師から「生きている間にはここから出られません」と言われたときには死を覚悟しました。

人質司法は、人を人として扱わず、人間の尊厳を傷つけるものだと思います。

無実の表明に対する言論弾圧

いわゆる東京五輪汚職事件を捜査していた東京地検特捜部は、私を容疑者として捜査しているということをマスメディアにリークしました。

大勢のメディアの方が家に押し寄せたため、家族や周辺住民のことも考えて取材に応じ、贈賄のことは知らないと言いました。

すると、取調べ担当検察官は私を急に呼び出して、「まずい」「記者会見なんてしたらいけない」などと言い出しました。

私はそれまで任意で事情聴取を受けていたのに、取材の9日後にいきなり逮捕されました。

容疑をかけられた人が自身の無実を世に訴えることの何がいけないのでしょうか。

これは言論弾圧だと思います。

非人間的な勾留生活

東京拘置所に到着すると、服を全て脱がされ、身体検査を受けます。

独居房は3畳ほどの広さで、畳が薄いため横になるとコンクリートの感触が伝わってきます。

部屋の奥には洋式トイレと洗面台があるのですが、トイレの便器はむき出しで通路から丸見えです。

窓は曇りガラスで目隠しされ、部屋からはわずかの隙間を通してしか空を覗くことができません。

毎日朝と夕に正座して看守を待ち、点呼が行われます。自分の番号である「8501」を答えなければならないのですが、私は自分が人間であることを示すために、「8501 角川歴彦」と名乗っていました。

死の恐怖

私は当時79歳で、心臓に持病があり、手術も予定されていました。

主治医は弁護人に「最悪の場合、死に至る可能性もある」と説明し、弁護人も保釈を請求してくれました。

主治医は訪ねてきた検察官に対して他の医療機関でも「できること」「できないこと」を説明してくれたのですが、検察官は「できないこと」として説明したことは全て無視し、「できる」と話した事柄だけを意見書に記載し、保釈に反対しました。

裁判所も私が無実を主張しているために保釈を却下し続けました。

勾留中に動悸がして医師の診察を求めたことが何度もありましたが、血圧を下げるなどの対症療法しかしてくれず、持病については病院での治療も受けさせてくれませんでした。

弁護士との接見中、突然意識が遠のき、その場に倒れたこともありました。

別の日にも、気持ちが悪いと述べて意識を失いました。私の顔面は真っ青でがくんと下を向き、よだれを垂らして呼びかけに応じなかったのだそうです。車いすで運ばれている際、ある医師が私に声をかけるどころか目を背けたことは本当に信じられませんでした。結局、拘置所の医師は血圧と脈拍を測っただけでまともな問診すらしませんでした。

私が最終的に保釈されたのは、2度目に倒れてから2か月以上経ってからでした。

何か一つでも違っていれば、私は今生きていないと思います。

人質司法を終わらせる

私は合計226日間勾留された後、弁護団の尽力によって保釈が実現しました。

身体拘束によって、自由だけでなく健康や会社での地位など様々なものを失いました。

しばらく放心状態にありましたが、監視されているのではないか、後をつけられているのではないかという恐怖や、自分が受けた理不尽な仕打ちに対するやり場のない感情が心の底で渦巻いていました。

そんなとき、同じく勾留された体験のある佐藤優さんに「会長は生きてあそこを出たのだから、生きて出たことの社会的使命があります。」と言われました。

人質司法は私だけの問題ではなく、大河原化工機事件では相嶋さんが保釈されないまま亡くなられたということも知りました。私も相嶋さんと同じように命を落としていたかもしれない、そしてこれからまた同じように人質司法に苦しむ人がたくさん生まれてしまうかもしれないと思うと、この国の刑事司法を恐ろしく感じました。

刑事裁判の弁護団長である弘中惇一郎弁護士に相談したところ、「角川さん、これは憲法と国連に訴えなければだめですよ」と言われました。

このような経緯もあり、私の無実は刑事裁判で争う予定ですが、それとは別に、2024年6月27日、裁判を通じて社会を変える「公共訴訟」として人質司法違憲訴訟を起こしました。

私は、憲法と国際人権に沿った公平で公正な刑事司法になるよう、この裁判を通じて人質司法の解消を訴えていきたいと思っております。

〈人質司法違憲訴訟弁護団・イノセンス・プロジェクト・ジャパン 西愛礼〉

角川さんの提起した人質司法違憲訴訟について、訴状等を公開しました。

また、本件訴訟にあたり人質司法を終わらせるためのオンライン署名を始めました。

皆様のお力をぜひお貸しください。

一緒に人質司法を終わらせましょう

参照:角川歴彦『人間の証明 勾留226日と私の生存権について』(リトル・モア、2024年)