三宮コンベンションセンターで開催された「神戸合同ひまわりの会・春の学習会」に参加しました。この会では、袴田事件についての映画「BOX 袴田事件 命とは」を視聴した後、袴田事件弁護団の角替清美先生による、袴田事件や再審についての講義が行われ、質疑応答が行われました。
「BOX 袴田事件 命とは」では袴田さんが有罪に仕立て上げられてしまう過程がリアルに描かれていました。その手口として、一日10時間以上に及ぶ取り調べが連日連夜行われたことが挙げられます。これにより、袴田さんのメンタルは削られていきました。袴田さんの調書では、犯行動機として「袴田さんが被害者の妻と不倫しており、火災保険の金銭目的があったこと」であったり、「年老いた母親と暮らすための金欲しさ」であったり、犯行の動機が日替わりで代わっていました。ありもしないストーリーを袴田さんは描いていたのです。苛烈な取り調べから逃れるために、虚偽の自白をしていました。袴田さんがいかに追い込まれていたのが分かります。
冤罪によって袴田さん本人だけでなく、袴田さんの周りの人や事件に関わった人の人生が狂わされていく様子も描写されていました。この映画では、袴田さんの他に焦点を当てられた人物がいました。袴田事件第一審の担当裁判官(左陪席)の熊本典道裁判官です。彼もまた、袴田さんと同じく冤罪によって人生を狂わされた人物です。彼はこの事件を担当した当初から、袴田さんは無実だと考えていました。しかし、彼は裁判長と右陪席の説得に失敗してしまい、結果的に袴田さんに有罪判決を下す結果となったのです。
熊本裁判官は、自分が無実だと思っていた人を有罪にしたことを深く、重く受け止めました。そこで、裁判官を退官した後、袴田さんを無実にするために活動するのですが、いつまでたっても変わらない現状に精神を傷つけられ、家族関係も乱れていきまた。1つの冤罪事件によって熊本さんの人生が狂わされていく、そんな様子がこの映画では描かれていました。
冤罪は、冤罪をかけられた人の人生だけでなく、その事件に関わった人達の人生も狂わせていくのです。この映画を見ていると冤罪の罪深さ、恐ろしさ、理不尽さがよく伝わりました。
映画を観た後、角替清美先生による講義が行われました。角皆先生は、・国家権力が正しいという認識を改めてほしいと述べられた上で、 袴田事件が最終的に再審で無罪になったのはいくつもの奇跡が重なったことが要因であるとして、以下の点を挙げました。
・熊本さんのような裁判官がいてくれたこと
・強い姉や母がいたこと
・映画を作るような支援者がいたこと
・DNA鑑定した教授が自分の信念に基づいて鑑定をしたこと
・2014年に静岡地裁で再審開始決定を言い渡した裁判長が、袴田さんの拘置の執行を停止し、即時釈放してくれたこと。これが無ければ、2020年に東京高裁で再審開始決定を取り消した判決は最高裁で破棄されず、2023年の東京高裁の判断につながる判決の差し戻しがされない可能性が高かったから
・袴田さんに対する死刑が40年以上執行されていなかったこと
これだけのことが重なって、無罪が証明されたと角皆先生は述べられました。
袴田さんの母と姉に「この裁判はおかしい」と言ってきてくれた人がいて、母も姉も救われました。一人でも信じてくれる人がいれば、救われる人がいることを覚えておいてほしいと、角皆先生は締めくくられました。
私は今回この会に参加して、袴田さんが理不尽に有罪に仕立て上げられて苦しみ、何十年もの時間を奪われていく様子、熊本さんが袴田事件という一つの冤罪事件によって人生を狂わされていく様子を見て、冤罪の罪深さ、恐ろしさ、理不尽さを再認識しました。
【甲南大学2回生 中西直輝】
映画「BOX 袴田事件 命とは」(2010年) 高橋伴明監督作品
