【イベントレポート】えん罪救済へのさらなる挑戦:イノセンス・プロジェクト・ジャパンのこれから

イノセンス・プロジェクト・ジャパン(以下IPJ)では、IPJの活動内容やえん罪被害の実態を啓蒙するWebイベント『えん罪救済へのさらなる挑戦:イノセンス・プロジェクト・ジャパンのこれから』を2022年10月27日に開催しました。

本記事ではイベントのサマリーをレポート形式でお届けします。

第1部:IPJの活動内容や今後の展望など
本イベントは2つのパネルディスカッションで構成されました。司会は、IPJの学生ボランティアです。
パネルディスカッション1にはIPJ運営委員で弁護士の池田良太・川﨑拓也の2名が登壇し、IPJの活動内容や今後の展望について、実際の事件の紹介も交えながら解説しました。

IPJはDNA鑑定をはじめとする科学的証拠や、供述を再検証することで、刑事事件におけるえん罪を晴らすための支援活動をしている団体です。
支援の申込みがあった際、運営委員が科学的証拠に基づいてえん罪を晴らすことができるかを審査し、支援可能だと判断された場合には法学者や弁護士、各分野の専門家によるアドバイスやサポートを提供しています。
このような支援を通じてえん罪をなくすだけでなく、えん罪を広く知ってもらうためのシンポジウムや広報活動にもIPJは力を入れています。
本シンポジウムでは、実際のえん罪事件について紹介がありました。まずは池田弁護士が担当した「湖東記念病院事件」です。2003年5月、滋賀県の湖東記念病院で人工呼吸器を使って生命を維持していた状態の患者様がお亡くなりになりました。当時看護助手をしていた西山美香さんが嘘の自白をさせられたことにより殺人の疑いをかけられ、最高裁で有罪が確定してしまった事件です。
IPJでは著名な弁護士や刑事訴訟法・刑法の研究者を交え、どのように再審を進めていくかを議論するなどして西山さんを支援し、2020年3月、再審での無罪判決につながりました。
一方、川﨑弁護士は、現在大阪高裁に係属中の「今西事件」を紹介しました。この事件は再婚相手の子どもの頭部に暴行を加え死亡させたとされる疑い等で逮捕・起訴されている今西貴大さんの事件です。
IPJではボランティアの学生が拘置所にいる今西さんに接見したり、この事件のことを広く知ってもらうためにホームページに記事を掲載したりと、さまざまな形で今西さんを支援しています。
事件報告の最後に司会の学生から、今後の抱負や決意について2人に聞き、以下のコメントがありました。
「IPJの活動を本領発揮させるためには、検察の手元に眠っている証拠を全部出させ、それを科学的な目で洗い直すことが必要です。しかし現在の法制度では実現が難しいので、きちんと証拠開示をさせられる制度作りをしていきたいと思います。」(池田弁護士)
「これまで以上に支援する事件を増やしていきたいと思います。また、えん罪を晴らすだけでなく、どうしたらえん罪をなくすことができるかを社会全体で考えていける波を起こしたい。えん罪が起きないよう最善を尽くしつつ、万が一起きてしまった場合にはきちんと救済する。そんな団体でありたいと思います。」(川崎弁護士)

第2部:えん罪被害や取調べの実態
パネルディスカッション2では「東住吉事件」のえん罪被害者・青木惠子さんと「湖東記念病院事件」のえん罪被害者・西山美香さんのお二人をゲストとしてお招きし、えん罪被害や取り調べの実態についてお話いただきました。ここでも司会は、IPJの学生ボランティアです。

「東住吉事件」は1995年に起きた事件です。青木さんの自宅で火災が発生し、お子さんが亡くなりました。青木さんは保険金目的での放火殺害の疑いで逮捕・起訴され、2006年に無期懲役の有罪判決が確定してしまいます。
その後2012年に再審が開始され、2016年に再審無罪の判決を受けました。青木さんは現在、国と大阪府を相手に損害賠償請求の訴訟を起こし控訴審で戦っています。
青木さんは最初の取り調べで嘘の自白をさせられてしまいました。その原因を「刑事にいきなり犯人扱いされ、また同居男性が娘に性的虐待をしていたと聞かされたことに衝撃を受け、刑事の描いたストーリーに沿って自白させられました」と振り返ります。
無罪をめざして戦い続けた青木さんは「保険金目当てで実の子を殺したという汚名を晴らすまでは、死んでも死にきれませんでした。再審で裁判長から無罪と言われても喜びはありませんでした。嘘の自白が排除されたと弁護士から聞いたときに、初めて感激で涙を流しました」と話します。
現在「冤罪犠牲者の会」や「再審法改正を目指す市民の会」で共同代表を務める青木さん。「えん罪に苦しんでいる人との面会の際にはいつも、“真実は一つ、本人が諦めずに戦い続ければいつかは勝てます”と伝えています」(青木さん)
一方「湖東記念病院事件」の西山さんは、有罪判決から再審で無罪になるまでの長い期間を振り返り「多くの人がえん罪に巻き込まれていることを知って、一緒に戦わなければいけないと思いました」と語ります。
「無罪判決が言い渡されるまでは精神的にきつかったが、無罪・雪冤と言われたときには嬉しかったですね。支援してくれる人は自分のえん罪を信じてくれる、つらい気持ちをわかってくれる唯一の存在です。」(西山さん)
また、現在の日本におけるえん罪支援や議論には何が足りないかと問われた西山さんは、「一度マスコミに報道されると、社会全体が犯人と決めつけられてしまう。一方こちらがえん罪と訴えても取り上げられることはありません。えん罪だと言う声を拾って報道してもらいたいし、世の中の人にもっとえん罪を知ってもらいたいと思います。」と話しました。
他方青木さんは、「えん罪について知らない人は全く知らないし、自分には関係ないと思っています。しかしえん罪はある日突然、誰の身にも起こりうることです。自分の身を守れるのは自分だけです。えん罪について少しでも知ってほしいですね。」と強調しました。

最後に、司会学生からIPJに期待することについて、お二方に尋ねました。
「弁護士費用が払えない人のために優秀な弁護士を派遣してもらったり、えん罪を知ってもらうためのシンポジウムを開いて情報共有したりしていただければと思います。支援があることで、いま獄中で苦しんでいるえん罪被害者も少しは救われるはずです。」(西山さん)
「IPJという団体があるということを知ってもらうだけでも希望となりますので、一人でも多くのえん罪被害者を救ってもらいたいと思います。」(青木さん)

最後に、イベントの運営や司会を担当した学生ボランティア達が発言する機会がありました。
えん罪問題を知って何が変わったか、IPJのボランティアをするようになったきっかけ、青木さん・西山さんのお話を聞いた感想、これからの意気込みなどを、各々が熱意を込めて語ってくれました。

イベントの最後にはIPJ副代表の笹倉香奈が登壇。
「このイベントに集まった全員が、世界的なえん罪救済の波、イノセンス運動に参加していると考えられます。専門家も実務家も学生も、えん罪被害者や社会の皆様と共に学び、取り組みを深めていくことによって、新たなえん罪救済の地平が開かれます。一緒にえん罪のない司法と社会を目指してさらに大きな繋がりを作っていきましょう」と締めくくりました。