【イベントレポート】日弁連再審法改正全国キャラバン企画「えん罪被害者を救うために、いま私たちにできること-刑事再審法改正をめざして-」

2023年1月20日、日弁連再審法改正全国キャラバン企画「えん罪被害者を救うために、いま私たちにできること―刑事再審法改正をめざして―」のレポートです。

1 「刑事再審における実際の審理と、刑事再審法の問題点」(鴨志田祐美弁護士・IPJメンバー)

鴨志田弁護士が、大崎事件を題材として冤罪が生ずる原因について説明しました。

大崎事件は、捜査機関、弁護士、裁判所のいずれにおいても冤罪の原因があるとのことです。

具体的には、誤った見立てに基づく捜査、供述弱者の共犯者から得た虚偽自白、利害関係を有する親族の変遷した目撃供述、ずさんな科学的証拠(解剖)、不合理なストーリ―に基づく弁護活動、共犯者審理を担当した裁判官の予断に基づく直感的・印象的判断などが挙げられていました。

また、鴨志田弁護士は再審の戦い方やその困難性について説明しました。

再審は具体的な審理手続に関する条文がなく、審理を経験した裁判官も多くないということでした。そのうえで、証拠開示の規定がなく、新証拠の発見が困難であり、裁判所が職権を発動したとしても検察による開示が不十分になることがあるそうです。また、再審は無辜の救済の手続であるはずなのに、検察官が再審開始決定に対して抗告することができるという問題も報告されていました。台湾では再審法改正が実現し、韓国では法改正まではされていないものの検察官抗告が批判され、これを慎重に行うためのマニュアルが作成されたとのことです。

2 「えん罪救済における国際的な潮流―アメリカにおけるイノセンス運動の歴史―」(笹倉香奈教授・IPJ副代表)

アメリカ留学の際にイノセンス・プロジェクトの活動に参加していた笹倉香奈教授が、アメリカの冤罪救済の歴史やイノセンス・プロジェクトの意義について説明しました。アメリカでは当初「冤罪はない」という信仰が強かったのですが、1989年以降、3361件もの冤罪事件が雪冤(救済)され、次第に冤罪を認めて過ちを正すという文化が醸成されてきたそうです。その中で重要な役割を果たしたのがイノセンス・プロジェクトであり、特にDNA型鑑定を用いてたくさんの冤罪を救済しただけでなく、雪冤事件の分析による冤罪原因の発見や、それに即した制度改革に貢献しました。また、このようなイノセンス・プロジェクトの活躍も受け、アメリカにおいては検察庁内部に冤罪究明部門(CIU/CRU)が設置され、各地のイノセンス団体と協働して雪冤を果たしているという状況もあるとのことでした。

笹倉教授が副代表を務めている日本におけるイノセンス・プロジェクト・ジャパン(IPJ)も、アメリカのイノセンス革命のような成果をあげられるよう、精力的に活動しています。

現在イノセンス・プロジェクト・ジャパンでは冤罪救済の資金を確保するため、月額定額寄付制のIPJサポーターを募集しておりますのでよろしくお願いいたします。

3 パネルディスカッション「えん罪被害者を救うために、いま私たちにできること」(パネリスト:笹倉香奈教授、鴨志田祐美弁護士、知花鷹一朗弁護士・IPJメンバー、コーディネーター:亀石倫子弁護士・IPJメンバー)

冤罪の原因などについて様々なディスカッションがありました。

鴨志田弁護士は、単なるヒューマンエラーではなくシステムエラーの問題もあるのではないか、例えば航空機事故の調査では個人の免責等も行われているが、日本では捜査官個人の責任追及等で終わってしまってシステムの問題につなげられていないという問題提起がありました。

笹倉教授は、システムの問題として、検察官の選挙がCIU等の設立につながっているところもあるものの、やはり一般人が冤罪を問題視していて世論が冤罪防止・救済を志向しているのが重要であって、我々も広報の在り方を考えていかなければならないと指摘しました。

知花弁護士は、被疑者は裁判所は真実を分かってもらえると思って虚偽自白してしまい、しかもそれが取調官とのやり取りを経て精巧化してしまうが、裁判所は重たい刑罰を受けると分かって自分に不利な嘘をつくはずないとその虚偽自白を信じてしまうことが問題だと指摘しました。また、そのような経験を経た方は司法に絶望してしまうため、再審をしようと気を取り直して立ち上がるのが非常に大変であり、その後も再審のハードルが高く、冤罪の救済には大きな壁がたくさんあるとのことでした。

最後に、「いま私にできること」として、全員で多層的な支援活動を行うことが冤罪の救済につながること(笹倉教授)、一般の方々から冤罪被害者の大変さを知って理解いただくだけで再審請求者としてもありがたいこと(知花弁護士)、冤罪を自分のこととして国民が考え、権力に対する不断の監視を行うことで国の冤罪に対する向き合い方を問う必要があること(鴨志田弁護士)を呼びかけました。

4 おわりに

閉会の言葉として、秋田真志弁護士(IPJメンバー)が、講師の鴨志田弁護士の「大崎事件と私」について紹介いたしました。

秋田弁護士自身も、冤罪に巻き込まれた人の理不尽さに何度も接した弁護士として、この再審問題をなんとかしなければならないと思うとし、みんなで再審法改正を実現しようと呼びかけました。