【学生ボランティア(京都女子大学)】「ドラマ『エルピス』×刑事再審法改正」レポート

 2023年4月22日、日弁連再審法改正全国キャラバン企画「ドラマ『エルピス』×刑事再審法改正 えん罪救済のこれから―正しさの基準とは―」のレポートです。 


1 「ドラマ『エルピス』にかけた思い」(関西テレビ放送 佐野亜裕美プロデューサー) 
佐野さんが、『エルピス』を制作するに至った経緯やその後の反響、脚本の渡辺あやさんとの協働作業についてお話しされました。 
当初はラブコメの予定だったのが行き詰まり、渡辺さんにえん罪の資料を手渡したところ、二人ともえん罪に強い怒りを感じて盛り上がり、渡辺さんがえん罪をテーマにしたドラマをやるべきだと言ったことが『エルピス』の始まりだそうです。
 また、『エルピス』の反響として様々な批判等が飛び交ったことについて苦しかったと話しつつも、一方で今回のような講演会が開かれたことや、普段テレビを視聴されない方からの応援などの良い反応も多かったことに感謝を述べていました。

2「えん罪救済と報道」(朝日新聞 井田香奈子論説委員) 
 朝日新聞で社説を担当している井田さんは事件・裁判報道の転機、えん罪と報道について講演されました。 井田さんによると、犯罪報道の一般論として、「ロス疑惑」報道の過熱や松本サリン事件等でのメディアスクラム、裁判員制度及び制度設計の過程で「偏見報道の禁止」規定が入ったことなどが事件報道を根本的に見直すきっかけになったそうです。 
 えん罪と報道に関しては、メディアで扱われる重大事件だけでなく、初報がないような事件にもえん罪はあることなどを説明したうえで、裁判で無罪判決が出たときは、それまでの報道が「誤報」であり、根本から訂正し、捜査機関に対しても検証を促すといった観点での報道が必要であることが指摘されました。また、井田さんはえん罪が疑われる事件をどう取材・報道するかが問題であると述べました。
 重大事件のえん罪を過熱報道が盛り上げ、固定化させたケースが過去にあったため記者・担当者は自ら予断・偏見をもたずに報道に臨んでいるかを常に問うていく必要があるとのことです。 

3「えん罪救済と司法」(刑事再審法改正実現PT副座長 亀石倫子弁護士) 
 亀石弁護士が再審についての問題点を説明しました。 
 問題点として再審請求の審理だけで何十年もかかっている点、裁判官が検察に証拠の開示を促さなければ証拠が開示されない点、再審請求しても検察官が不服申し立てをすることができる点などがあげられました。
 再審制度が70年以上にわたり一度も改正されていないことについても言及がありました。

4 ディスカッション「えん罪救済のこれから」―正しさの基準とは―
(佐野亜裕美×井田香奈子×亀石倫子 コーディネーター:秋田真志(刑事再審法改正実現PT座長)) 
 えん罪の構造等について様々なディスカッションが行われました。 
佐野さんはえん罪にはわかりやすい敵がおらず、再審についての説明も伝わりづらいから報道が少ないのではないかと指摘しました。また、たびたびえん罪と共に問題になる死刑制度について問われると、そもそもの情報が少なくリアルに感じられない、本当に死刑制度が犯罪抑止につながっているのか、国家が人を殺す意味があるのかということなどについて疑問を呈していました。
 井田さんは報道機関には権力を監視する役割があるとしつつも、なぜ報道があるのかを視聴者等に伝えられておらず、えん罪についても概念的に伝えるのが難しいことを指摘し、死刑制度については、制度の不透明さに加えて他の民主主義国家が死刑制度を無くした要因も踏まえて、死刑制度のない世界について社会全体で考える必要があると呼びかけました。 
 亀石弁護士はえん罪というと裁判官や検察、警察が咎められがちだが、弁護士も被疑者を信じて尽力したか、報道も視聴者に対して受け狙いの報道を行い、視聴者もそういった報道を求めていたのではないかなど、国民全員がえん罪の原因になり得ることを自覚しつつ、えん罪の発生に注意する必要があると指摘しました。

5 イベントの感想 
 今回のイベントに参加して佐野さんの「えん罪は交通事故と同じでいつ巻き込まれるのかわからないことに恐怖を抱いた」という言葉が印象深かったです。えん罪は自分で気をつけていても他人の偏見や権力に巻き込まれて起こってしまうものだということをこの言葉から感じました。佐野さんと渡辺さんはえん罪の存在を知ったとき、怒りを覚えそれを共有することで『エルピス』を作り上げました。私も今回の御三方の話を聞き、改めて再審制度の不十分さ、えん罪発覚後のメディアや検察の態度、無意識のうちに一市民としてえん罪に加担してしまっていたことに気づき、いてもたっても居られなくなりました。亀石弁護士が「えん罪という問題は知ってしまったら知らなかった時には戻れない。だからこそ知るのが大切。」とお話しされたようにえん罪について知る人が増えたら再審制度や報道の在り方を考え直す機会が自然と多くなると思いました。そのために私ができることは微力かもしれませんがIPJ学生ボランティアとしてSNSを通じて世界中の人に発信したり、シンポジウムやワークショップを企画・運営して一人でも多くの方に知ってもらう機会を作りたいと考えました。また、裁判官や検察官のえん罪に対する考えを知りたいと思いました。今回のイベントで学んだことを忘れずに今後の活動で活かしていきます。

S.O. 京都女子大学1年生