前回の(3)では、大会初日の様子を中心にお届けしました。
今回は、参加したセッションについて詳しくお伝えします。レポート最後には、今西事件について、海外の法医学者からのコメントもあります。
セッションへの参加
大会では、様々なテーマに分かれてたくさんのセッションが開催されました。
同時間に10のセッションに分かれるときもあり、興味・関心のあるテーマばかりで、どのセッションに参加するか最後まで決めることが難しかったです。どの時間帯にも大変充実したセッションやイベントがありました。個々のイノセンス・プロジェクトの活動について、揺さぶられっこ症候群について、そしてLGBTであることが有罪判決にどのように影響するかについてなど様々なテーマがありました。
以下、筆者が参加したセッションを3つご紹介します。
- LGBTQとえん罪に関するセッション
筆者が参加したセッションのひとつに、「LGBTQ Implications in Wrongful Convictions(間違った有罪判決を導くLGBTQの影響)」がありました。このセッションは、当事者がLGBTであることが有罪判決にどのように影響するかを考えるもので、特に活発な議論がなされました。えん罪当事者自身もパネリストとなり、涙ながらに自身の経験や、雪冤された現在も忘れることができない事件当時の状況を語る場面もありました。 - えん罪を明らかにすることができるかを判断する審査過程に関するセッション
筆者はIPJで、支援申込みがあった事件について、科学的に「えん罪」を明らかにできるか否かを審査するチームに属しています。そこで、アメリカのイノセンス・プロジェクトの審査について学び、IPJの審査に反映させたいと考え、このセッションに参加しました。
このセッションには、審査に関わっている弁護士がパネリストとして参加し、ボランティアや学生と力を合わせて取り組んできた活動を報告していました。
たとえば、カリフォルニア・イノセンス・プロジェクトでは、十分な研修をしたうえで、学生も積極的に携わり、学生とボランティアが弁護士と一緒にスクリーニングに深く関与していました。そうすることで、膨大な申し込みゆえに弁護士や専門家だけでは対応が難しかった状況から脱し、円滑に支援を進めることができるようになったとのことでした。
セッション終了後にはカリフォルニア・イノセンス・プロジェクトのパネリスト達と交流し、今後の情報交換を約束しました。このセッションでの報告や新たな交流を通して、IPJに導入できる点は積極的に共有し、反映させていけたらと考えています。
- 国際部会ミーティング(International Attendees Meeting)
大会二日目の午前は、米国以外の国の参加者が集合する国際部会のミーティング(International Attendees Meeting)に参加しました。このセッションでは、揺さぶられっこ症候群(shaken baby syndrome, SBS)に関する国際共著 “Shaken Baby Syndrome-Investigating the Abusive Head Trauma”がまもなく発売されることにあわせて、共著者の2人であるキース・フィンドレイ氏(ウィスコンシンIP創始者、ウィスコンシン大学教授)とIPJ事務局長の笹倉香奈が、同書の紹介を行いました。笹倉は、SBSに関する国際的な議論の状況について述べた同書の内容を紹介しました。また、IPJメンバーで、笹倉とともにSBS検証プロジェクトの共同代表を務める秋田真志が、日本の状況について、IPJの支援事件である今西事件を取り上げて情報提供をしました。
このセッションでは、他にも海外のイノセンス団体の弁護士からの報告がありました。例えば、南アメリカのイノセンス・ネットワークを主宰するジャスティン・ブルックス氏(カリフォルニア・イノセンス・プロジェクト代表、カリフォルニア・ウェスタン・ロースクール教授)からは、メキシコの刑事司法に関する紹介がありました。その中で、えん罪を防いでいくためには、弁護士に対する教育を充実させることが必要との指摘がありました。えん罪は、人の人生や命すら奪ってしまう最大の人権侵害であるにもかかわらず、どこでも誰にでも容易に起こってしまい、これは日本を含む世界でも共通する点です。国を問わず世界共通で、若い世代から、えん罪防止に向けた教育に取り組んでいくべきであると当大会に参加して実感しました。
イノセンス・ネットワーク大会を振り返って
筆者は、今年初めてイノセンス・ネットワーク大会に参加しました。予想以上に様々な、そして多くのテーマがあり、2日間朝から夜までみっちりと学ぶことができました。
大会には世界中から専門家が参加していたので、各国からの報告を直接自分の耳で聞き、休憩時間や食事の時も交流の機会があったため、大変貴重な経験でしたし、刺激を受けました。
直接たくさんの雪冤者から話を聞くことで、日本だけでなく、世界でも、雪冤されたとしてもその人の人生は戻らない、一生苦しむことになるという「えん罪」のもたらす悲劇を改めて痛感しました。IPJの支援事件を含む再審事件で、えん罪からの早期救済に尽力していきたいという強い思いを抱いて帰国しました。
サンディエゴの法医学者Evan Matshes先生を訪問
イノセンス・ネットワーク大会に参加する前日、IPJのメンバーはカリフォルニア州サンディエゴの法医学者であるEvan Matshes先生を訪問しました。
Matshes先生は、過去に約500件のSBS/AHT案件を扱った実績があり、IPJが支援をしている今西事件と同種の事例も扱っています。
今西事件において検察官は、被害者とされる幼児の大脳鎌周辺が大量に出血しているため、外力が加えられたのだと主張しています。私たちは、この検察官の見解の当否や医学的知見について聞くために、Matshes先生を訪問しました。
Matshes先生は、被害者とされる幼児の脳のCT画像や解剖写真等の資料から考察した結果、症状は内因性の出血によるものと考えられると指摘しました。
日本には、SBS/AHT案件を専門的に扱う法医学者はいません。しかし、海外で法医学を専門とする医師が、本件での大脳鎌周辺における大量の出血は、外力によるものではないと述べたのです。これは、法医学上も、そもそも事件性がなく、病死の可能性が極めて高いことを意味します。
今西事件を支援しているIPJでは、海外からも情報を集め、今後も今西さんの無罪判決に向けて支援を続けてまいります。
松本 亜土(まつもと あど)