イノセンス・ネットワーク大会2024に参加しました! 〈その2〉

参加者との集合写真

はじめに

 2024年3月22日と23日の2日間に渡ってアメリカのルイジアナ州ニューオーリンズで開かれたイノセンス・ネットワーク大会(Innocence Network Conference)にIPJの学生ボランティアとして参加してきました!私が大会中に参加したブレイクアウトセッションや他の参加者との交流についてお伝えしたいと思います。

ブレイクアウトセッション

 大会中には、えん罪に関連する様々なテーマについてのブレイクアウトセッションが開かれました。セッションでは、主に法律家やイノセンス団体のメンバー、雪冤者の方々が登壇し、講演・議論を行います。私も計7つのセッションに参加しました。その中でも印象に残っているものを紹介します。

CIUとイノセンス団体の協働

 私が最初に参加したセッションは、CIU(Conviction Integrity Unit)に関するものでした。

Photo: Lyra Photography

 CIUとは、えん罪の防止・発見・是正に取り組む検察の一部署です。つまり、検察官が過去に行った訴追行為及びその結果として裁判所により下された判決に誤りがなかったかを自ら精査するのです。アメリカでは、各地の州検察局や連邦検察局の内部にCIUが設置されています。これらのほとんどは、2016年以降に設置されています。日本の検察庁には現在このような部署は設置されていないので、私にとっては検察の組織内にこうした部署が存在すること自体が驚きでした。

 本セッションは、CIUとえん罪被害者を支援するイノセンス団体との間の連携の現状とその課題について実務家の方々が講演・議論するという内容のものでした。えん罪が疑われるケースが発見されると、CIUとイノセンス団体が協働して雪冤に向けて取り組むことが多いそうです。過去にCIUでケースを担当してきた登壇者の方は、協働作業を行うなかで、CIU担当者とイノセンス団体側の弁護人との間の円滑な連携及び良好な信頼関係の構築が欠かせないと指摘していました。そのためには、刑事弁護に精通した元刑事弁護人がCIUに入り、ケースを担当することが有益である点を強調していました。その他、雪冤に欠かせないDNA検査のための資金の工面に苦労することがあるなど、CIUが現在抱えている様々な課題についても議論されました。

 本セッションを受けて、CIUとイノセンス団体の両方の関係者が、CIUの設置にとどまらずその運用を改善するために努力している姿に感銘を受けました。日本でも、CIUのような部署を検察庁内に設置することで、刑事司法制度をより良いものにできるのではないでしょうか。

登壇者
Photo: Lyra Photography

陪審制と人種差別

 次に紹介するのは、陪審員による人種差別(Jury Discrimination)に関するセッションです。

Photo: Lyra Photography

 このセッションでは、開催地であるニューオーリンズのイノセンス団体で活動している弁護士の方から、陪審員による人種差別がえん罪の発生原因の一つとなっていることについての説明がなされました。過去に行われた陪審員裁判のデータから、黒人の陪審員の意見の方が白人の陪審員の意見よりも少数意見として切り捨てられやすいことが分かっているそうです。さらには、誤判であったことが後に分かったケースでは黒人の陪審員の意見が特に軽視されやすいのです。もっとも、2020年の連邦最高裁判所による判決により、一部の軽犯罪を除いては、陪審員の全員一致の投票がなければ有罪判決を下すことができなくなりました。

 とはいえ、陪審員の人種多様性を確保することは以下のような理由から引き続き重要とのことです。2019年に行われた研究によると、被告人が黒人であるケースで、陪審員全員が白人である場合には陪審員が不適切な事実認定を行う可能性が高いのに対して、陪審員に黒人がいる場合には、他の白人の陪審員がより慎重に事実認定を行うようになります。つまり、陪審員の人種多様性を確保することで、多数派である白人の陪審員らは自らが潜在的に持っている偏見に自覚的になるという効果をもたらし、人種的偏見による誤判を防ぐことができるのです。

 えん罪の原因としては、虚偽の自白や誤った目撃証言が挙げられることが多いですが、裁判体を構成する者の人種的偏見がえん罪の原因となりうるというのは私にとって新たな発見でした。現在の日本でも、外国人が被告人である場合に裁判体の人種的偏見が誤判を招くおそれは十分にあるのでは、と考えさせられました。

Photo: Lyra Photography

他の参加者との交流

 イベント期間中に様々な方と交流する機会がありました。その中でも、台湾イノセンス・プロジェクトのメンバーの方々と、台湾で雪冤を果たした雪冤者の方々とお話をする機会が多かったです。皆さんがとても親切で、2日目の夜には一緒にニューオーリンズの名物であるシーフードを食べ、その後ジャズバーで音楽やお酒を楽しみました。

台湾IPとの夕食

 台湾イノセンス・プロジェクトは2012年に設立され、今までに14件の支援事件で雪冤を果たすという素晴らしい功績を残しています。えん罪の予防・発見・是正のための法改正を推進する活動にも注力しており、過去には、(アメリカのCIUに類似する)台湾の検察組織内にある、有罪判決確定後に判決が誤っていないかを審査する審査会の設置にも大きな役割を果たしたとのことです。台湾から大会に参加した雪冤者の方も、検察官による再審請求の後再審無罪となっています。このことを知り、冒頭に紹介したセッションとも併せて、検察とイノセンス団体の協働という考えに大きな可能性を感じました。メンバーの方々とお話をする中では、活動内容や組織の運営方法、資金調達の秘訣など、IPJにとっても参考となる情報を沢山お聞きすることができました。

 今後も、世界各地のイノセンス団体との協力を強化し、IPJの活動に活かしたいと思います!

大会に参加して

 久しぶりの海外ということもあり、本大会に参加することには少し不安がありましたが、振り返ってみると参加して本当に良かったです。アメリカのロースクールでイノセンス団体の活動に精力的に取り組んでいる学生ボランティアの方々や、長年投獄された後に無罪となった雪冤者の方々とお話をする中で、「えん罪に苦しむ人をなくす」という目的のために熱意をもって活動する方の姿に感動し、私にももっとできることがあるのではと思いました。台湾イノセンス・プロジェクトの方にIPJの活動を広げるにはどうしたらよいか尋ねると、「advocate(主張、活動)しないと!」と言われました。今回の経験を糧に、えん罪をなくすために精力的にadvocateしたいと思います!

神戸大学法科大学院2年次・冨田大貴

Photo: Lyra Photography