この3月に科研費での研究調査のため単独で韓国に行ってきた。
コロナ禍による規制がまだ緩和されない頃だったので、K-etaというビザや接種証明、その他に検疫情報入力など準備が大変であった。出発日にはやや緩和され旅行者が増えだしたものの、大韓航空は日に1往復だけと不便なうえ、空港での検疫や保安検査はごった返し長蛇の列ができ、宿泊地の天安牙山(チョナンアサン)に到着したのは20時近く…。天安牙山はソウルから南へKTX(韓国の新幹線)で約30分にあり、警察大学へのアクセスに便利で静かな町である。
国立警察大学
セミナーにて
あくる日、警察大学に向かい友人と待ち合わせたが、待ち合わせ場所がよくわからず、警察官に職務質問された。当日は、卒業生の任用式典が開催されようとしており、大勢の警察官がいて、大きな荷物を両手に下げたこの老人は不審者にみえてもおかしくない。ともかく行く先の教授の名前を告げると、長い廊下を案内されてあるセミナー室に通された。
入口には案内看板が出ており「警察大学法学研究センター学術セミナー『捜査過程における法科学の活用に関する韓国・日本・台湾の比較研究』2023.3.14、15:40-18:20警察大学研究講義室第423号実証法学研究センター、発表 平岡義博(立命館)」とあって座長と討議司会者の名前が書いてある(もちろんハングルなので後でわかったのだが)。しかも原稿のパワポ資料が印刷され製本されて積み上げられている。視察のついでに土産話と申し出たつもりだったが、大層なセミナーになってしまった。
口演内容は、日本・韓国・台湾の法科学・刑事捜査の現状、法学と科学の共創に向けた取り組みの必要性を、練習した英語で発表したが、通じたかどうか。とにかく、これまでの調査で日本の法科学が韓国・台湾より遅れており、そのために視察調査にきたことは理解してもらえたようだ。聴講者は20名程度、教授が3名であった。一人の教授から個別にDNA型鑑定の問題を質問され、混合資料や微量資料で限界があることを説明した。また、日本の供述分析(SA)と韓国の供述妥当性分析(SVA)の違いについて質問されたがその場では答えられなかったので、後日回答した。
セミナー室にて
国立警察大学の特徴
韓国の警察大学の最大の特徴は、一般市民が受験して入学できる国立大学である点である。警察幹部育成のために設立された大学であるため超難関の大学である(一般の警察官採用試験とは別)。当初は年齢制限などがあったが近年は緩和され、編入試験でも入学できるようになった。
警察大学の法学部では、憲法・刑法・刑事訴訟法のほか民法・行政法などのプログラムが、行政学部では行政学・人事行政など行政の手続きや理論についてのプログラムがある。また、警察科学部では犯罪予防や犯罪捜査に関する基礎講座と最近のサイバー犯罪捜査・情報分析・犯罪証拠・法医学などについて学ぶ。
警察大学には2年間の修士課程と3年間の博士課程がある。その約2/3は警察官で1/3は民間人である。警察官も民間人も同じ教育を受け研究課題に取り組み、優秀な警察幹部や教育者を輩出している。 次に大きな特徴は、警察大学の他に警察人材開発研究所・警察捜査研修院・警察科学研究所が併設され、法科学やサイバー捜査など専門的な教育が実施されており、充実した教育システムを構成している点である。科学技術の発展にともない、警察官に対して法科学や情報科学などの教育が実施されていることは、科学的証拠を捜査に適切に用いるうえで非常に重要なことである。
平岡 義博(ひらおか・よしひろ)
ー(2)に続く