【コラム】韓国の科学捜査が凄い!-韓国調査旅行記(3)ー刑事警察組織

 韓国警察庁では最近、刑事部⾨が格上げされて「国家捜査本部:National Office of Investigation(NOI) 」となった。NOIは、アメリカ合衆国のFBI(連邦捜査局)を真似たものといわれる。

1 科学捜査管理官

 警察庁の組織でまず注目されるのは、科学捜査管理官という部署があって組織の上位に位置付けられていることである(上図の太枠)。その中の科学捜査センターは、科学捜査技術を研究し捜査現場に応用する部署であり、2005年に科学捜査課を改称・拡大され、プロファイリング、供述分析、脳波分析など先端の心理学的捜査法やコンピュータを使用した捜査などの研究を担っている。

2 捜査局と刑事局

 NOIには刑事捜査を担う捜査局と刑事局がある。捜査局は主に経済犯罪や汚職事件を担い、刑事局は凶悪犯罪や組織犯罪の捜査を分掌する。実際の捜査は地方警察庁が担うので次の4でソウル警察庁の例をみる。

3 捜査人権担当官、捜査審査課

 捜査人権担当官はNOIの中で最上位に位置付けられ、人権に関する市民からの警察捜査に対する苦情対応を担当している。また、捜査企画調整局の捜査審査課は捜査が適正に実施されているかを審査する部署と考えられる。刑事捜査が人権侵害を侵さぬよう、科学的証拠を正しく適用できるよう、法令を遵守して実施されるよう管理することは重要なことである。

4 ソウル警察庁

 ソウル警察庁の捜査副長官の下に捜査部があり、捜査課・刑事課・サイバー捜査課・科学捜査課・汚職公共犯罪捜査課・経済犯罪捜査課・重要犯罪捜査課・麻薬組織犯罪捜査課で構成される。刑事課は重要犯罪と暴力犯罪の捜査を担当し、捜査課はその他の刑事犯罪の捜査を担当する。ここで注目されるのはこれとは別に「重要犯罪捜査課」があって殺人事件などの凶悪犯罪の捜査を担当しており、これは日本の捜査本部事件捜査に対応する。異なる点は、韓国の重要犯罪捜査課は常設であるのに対し、日本の捜査本部は臨時であることである。韓国では常設であることにより、NFSのDNA型鑑定支援を得て未解決事件の捜査を実施している(https://www.smpa.go.kr/user/nd83854.do)。

 ソウル警察庁の捜査部には科学捜査課があり、ここには科学捜査管理課とKCSI(Korea-Criminal Scene Investigation:犯罪現場捜査班)が所属している。KCSIは、犯罪現場からの物的証拠の収集を担当しており、さらに指紋鑑定や血痕検査など、一部の科学鑑定を業務としている。KCSIは日本の鑑識課に相当する部署であるが、その活動範囲が単に証拠資料の採取だけではなく、国立法科学研究院などと連携し、2015年から法科学に関する国際会議を開催しているのである。その内容は日本の鑑識レベルとは格段に高いものが垣間見られる(https://kcsi.go.kr/kcsi/main/conference/mainConferencePageEng.do)。

 2020年の国際会議(CSI KOREA 2021)の一部を掲載する。

⑴ New Technology in crime scene investigation,  Henry C.Lee (New Heaven大学)
 現代の法執行機関は、高度な法医学技術と標準化された犯罪現場鑑識手順の導入により、犯罪を解決する能力を大幅に拡大している。今日、犯罪は多くの場合、犯罪現場の詳細な鑑識、科学的証拠の鑑定、および犯罪現場の復元を組み合わせることで解決可能である。

⑵ Forensic DNA phenotyping, distant kinship inference and genetic genealogy from genome-wide SNPs, Ellen McRae GreyTak(Parabon NanoLabs, Inc生物情報学部長)
 Genome-Wide SNPsは従来のSTR 型DNA鑑定による家族検索とは異なり、行方不明者(または身元不明者)のDNA型と家族を結びつけ、犯人の身元を特定するのに応用可能であることからコールドケースの解明に道を開くものである。

⑶ Is forensic science still in crisis? – A different perspective on nomenclature, risk and scientific reasoning, Claude Roux (シドニー工科大学法医学センター所長) 他
 アメリカ合衆国で法科学の脆弱性が指摘されたことふまえ、法科学コミュニティの鑑定・研究・教育の長期的な改善策が必要である。アメリカ合衆国で発覚した「バックログ問題」以後、エラー率、バイアス、専門分野の断片化、基礎的な研究と原則の欠如、教育の格差、適応力の欠如など定期的に議論されてきた。演者は法科学を一般の科学と対比することにより、用語法・エラー率・推論法を述べている。

平岡 義博(ひらおか・よしひろ)

(4)に続く


[1] 平岡義博「ヒューストン法科学センターの取り組み(上)」季刊刑事弁護96号(2018年)106-111頁。