私は11月30日に大阪高裁で開かれた、今西事件の二審の第4回公判を傍聴しました。
これまで裁判傍聴に行ったことや、今西事件について勉強したり拘置所に面会に行ったりしたことはありましたが、今西事件の傍聴をすることは初めてでした。一回生のころから今西事件について勉強して知っていたので、今年から開始された控訴審にはいつか行ければと思っていて、今回やっと傍聴することができました。
この裁判では、今西さんが起訴されている傷害致死罪について、検察側、弁護側双方とも、医学者の見解を証拠としています。検察側は今西さんが加えた外力により頭蓋内出血が起きて心肺停止となったと主張していますが、弁護側は心筋炎などの病気から心肺停止が先に起こり、そこから蘇生後の再灌流によって頭蓋内出血が起きたと主張しています。
今回の公判では、脳から切り出された顕微鏡の写真からみられる出血が起こったのは、心肺停止前か、心肺停止後かが争点となりました。検察側からは法医学者が、弁護側からは病理医が証言し、それぞれに対して尋問が行われました。その際の医師の発言は対照的なものでした。
検察側の医学者の方の証言は曖昧ではっきりしていませんでした。弁護人に本件の出血が心肺停止前か後かを尋問されたとき、どちらかをなかなか断言せず、何度質問されても明確に答えませんでした。刑事裁判では、検察官に立証責任があり、合理的な疑いを超える証明をしなければなりません。疑いの余地なく心肺停止前に出血が起きたと断言できないのなら、その立証責任が果たされていると言えないのでは、ととても疑問に思いました。それに対して、弁護人側の証人である病理医の方は自信をもってはっきりと証言していたと感じました。病理学からの見解で本件の出血は外力によるものでないことや、死線期出血から心肺停止と頭蓋内出血が同時期であること、という主張でした。これは今西さんによる外力がなかったことをしめすものだと思います。
また、今回は初めて法廷に立っている今西事件弁護団の先生方を見ることができました。事件についての講義をしてくださった時や、同月に行われた全体会などで会ったり話したりしたことはありましたが、実際に弁護人として尋問をしている姿を見るのは初めてでした。なかなか証言しない検察官側の証人にも屈せずしぶとく何度も質問したり、検察官側が唱えた異議に対して受け答えしたりしている姿はスマートで感動しました。
私は今西さんの無実を信じています。この裁判からそれが証明され、今西さんに無罪判決が言い渡されれば良いなと思います。そして、一刻も早く今西さんが釈放される日が来てほしいです。 【甲南大学法学部2回生・栗岡周平】
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「今西事件」の控訴審第4回公判を傍聴しました。今西事件については、こちらをお読みください。
私は今回初めて裁判所に傍聴に行きました。今西事件の控訴審の傍聴に参加しようと思ったのは、拘置所へ行って今西貴大さんと面会したことがきっかけでした。初めてお会いした今西さんは明るく迎えてくださり、楽しく会話しながら20分間お話ししました。その短時間で、普段の学生生活の話に耳を傾けてくださったり、今西さんが拘置所内で法律の勉強をしていると仰っていたりして、真面目な方なのだなという印象を受けました。実際にお会いしたことで人柄の良さに触れ、今西さんの人生を左右する過程の1つである控訴審を実際に見届けてみたいと思うようになりました。
今回の法廷では、傷害致死事件について、解剖写真や脳の深い部分から切り出された組織のプレパラートから、外力によって脳幹損傷が生じた痕跡が認められるのか、出血は心肺停止が生じた前のものか、それとも後のものかについて、検察側・弁護側の双方の主張を裏付ける専門医の証人尋問が行われました。本件では、解剖結果などから、脳の深部にある「脳幹」が外力(暴行)により損傷して心肺停止となったという認定が、一審で行われています。今回はこの点について、神経病理医(弁護側証人)と法医学者(検察側証人)の尋問が行われたのです。
最初に弁護側証人の尋問から始まり、神経病理医学者が証言しました。病理検査では脳の組織に何が起こったのか、起きたことが人体にどのような影響を及ぼすのかがわかります。病理医は、本件の場合、心肺停止後に血流が止まったことで脳の組織が脆弱化し、その後の血液の再灌流によって脆くなっていた脳の血管が耐え切れずに出血したと考えられると証言しました。
「心肺停止以降」を死戦期とし、死戦期出血の鑑別点として脳底組織のプレパラートから見られた4か所(①から④)の所見について証言が行われました。①と④は動脈の血球の色が抜けており、この現象は心肺停止以外で起こることはなく、心肺停止後に変化したものです。心拍再開以前のものと考えられることから、心肺停止の直前もしくは直後に起きたことがわかります。②と③は①と④に比べて色が鮮やかだったことから、再灌流により血液が新鮮な状態と考えられ、心拍が再開してから7日以内のものだとわかります。③はくも膜下出血内で見られており、くも膜下出血も再灌流によるものと考えられます。心筋炎により血液が凝固せずに流れてしまうことでくも膜出が起こりうるので、外力以外でも生じると言えます。この①~④の所見が見られている脳底のプレパラートは、本件の出血が心肺停止後のものである大きな証拠である、と証言しました。
検察官からの反対尋問で、脳血管が脆弱になったことで血管の弾力性を保つバランスが崩れて出血したと考えられることが明らかになりました。また脳の所見から、心筋炎は可能性の1つなのではないかと主張しました。
対して検察側の専門家として法医学者が証言し、心肺停止の原因は頭部への外力が原因であると証言しました。法医学者は死戦期を「死亡する直前」と定義したうえで、出血が組織内にある程度広がっていることから、死戦期に出血したものではない、死戦期以前に出血したと考えられると証言しました。脳幹が損傷したことにより、血圧や呼吸のコントロールができなくなり、心肺停止を引き起こしたということです。脳幹は少しの損傷でも死に至ることがあり、本件の損傷は外力によるものだと主張しました。また脳底の死戦期出血については、脳底が軟化したことにより小脳の一部が崩壊しやすい状態にあったと考えられるとし、一貫して外力による出血があったことを証言していました。
弁護人から法医学者への反対尋問で、外力によって脳幹が損傷したことで心肺停止が起きたものだと間違いなく言えるかどうかについて問うたところ、断定は完全にはできないとしました。法医学者は出血が心肺停止以前にあったことを強く主張していたことから、出血について弁護人より詳しく尋問されましたが、その出血はいつ頃発生したものなのかと聞かれた際、最終的には組織の赤血球からは心肺停止前、もしくは後の出血なのかどうかは区別できないとの証言が行われました。脳底のプレパラートから、心肺停止前に脳幹に強い外力が加わったことで血管が破綻した、というのが法医学者の証言内容です。対して弁護人は、もし血管が破綻し出血したのなら、プレパラート(針先よりも小さい)上で見られる出血量はかなりのものになるはずではないか、本件では出血は極小であると指摘したところ明確な返答はありませんでした。
公判廷では医療用語が飛び交い、医療の専門知識を駆使しての争いで、聞き取って理解するのはなかなか難しかったです。しかし、素人目線で分かったことは、検察側の医師の証言が不明瞭だったということです。どれだけ問われても可能性があるという回答しかないにもかかわらず外力による損傷があったと決めつけており、そんな曖昧な見解で今西さんがやったなんて言いきれないはずなのに、外力が前提であるという見解がまかり通ってしまっている現状が悔しかったです。弁護人が法医にした質問は、素人でも法医が言っていたことがおかしいとわかるもので、終始弁護人の主張が納得できるものでした。法医に対して病理医の証言は明確でした。公判後の集会で、医療用語について解説を交えながら病理医の話を聞いていて、納得が確信に変わりました。
実際に傍聴行ってみて、刑事裁判において合理的な疑いがあれば無罪にしなければならないこと、そして検察官に100%の立証責任があるはずなのに、それが本当に守られているのか疑問に思いました。裁判は人の人生を大きく左右させる力があるからこそ、慎重に確実に立証しなければならないはずです。しかし、今回の控訴審において、検察官は今西さんが外力を加えた犯人であることを決定付けるような証拠や証言を提示できていたでしょうか。私は検察官の主張は立証できていないと思うとともに、無責任だと感じました。第1審の判決文も、証拠に基づいての判断というよりは「容易に想像できる」という理由や、「医師の証言に説得力がある」から、という理由で有罪の結論に至ったように読めますし、このことに憤りすら感じます。
今回の裁判から刑事司法の問題について実感することが出来ました。自分1人でできることは少ないかもしれないけれど、IPJの活動を通して刑事裁判がもっと正しく行われるように、冤罪が少しでも減るように活動し続けたいです。 【甲南大学法学部1回生・横田麻奈】
*この投稿は、甲南大学地域連携センターのウェブサイトにアップされたものに、大幅に加筆したうえで許可を得て再掲したものです。