【学生ボランティア(甲南大学)】神戸質店事件に関するシンポジウムを開催!【ご参加御礼】

IPJ支援事件の神戸質店事件について、2024年3月30日に甲南大学岡本キャンパスにてシンポジウムを開催しました。140名を超える方にお越しいただき、再審請求に向かう事件の現状について熱心に聞き入りました。シンポジウムは、甲南大学のIPJボランティア1回生・2回生が企画から準備、広報、当日の運営まですべてを担いました。どのような思いでシンポジウムを企画し、当日を迎えたのか、中心となった学生たちのレポートをお読みください。

シンポジウム当日の動画は、こちらでもご覧いただけます。

■シンポジウム開催のきっかけと当日までのこと■

2024年3月30日に甲南大学で、現在IPJが支援している神戸質店事件に関するシンポジウムを開催しました。今回のシンポジウムは、甲南大学の学生が1から企画し、準備や本番の司会等、ほとんどすべての役割を担いました。私からは、このシンポジウム開催までの準備の様子についてレポートにしたいと思います。


私が、神戸質店事件について知ったのは一昨年の冬頃でした。数年前から甲南大学の学生が審査のお手伝いをしていた事件で、先輩方に1から事件の内容を教えていただきながら勉強を進めました。当時は現在に比べて、法律の知識をもっていませんでしたが、第一審、控訴審と判決文を読んだ際、無知ながらにも、「控訴審判決は無理矢理、有罪判決に結びつけているようにしか思えない!」と憤りを感じたことを覚えています。大学の講義で学んだ、「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の原則は実務では守られていないのかとショックを受けつつ、私たちはさらに学習を進め、再審請求のために行った目撃証言に関する実験もお手伝いいたしました。目撃証言に関する実験を終えて、専門家ではない私たちがほかにできることは何か考えた結果、シンポジウムを開催し、多くの方に神戸質店事件について知っていただこうという結論に達しました。甲南大学法学部教授でIPJの事務局長である笹倉香奈先生に今回のシンポジウムを提案し、笹倉先生のご指導のもと準備をはじめました。

準備の段階では、まず事件について再度判決文を読んだり、弁護人の戸谷先生に事件について伺ったりしながら勉強し直しました。また、再審制度についても根拠条文を読み解きながら学びました。参加学生がしっかりと事件について知ったうえで、本格的に準備がはじまりました。それからは、全体司会、事件の概要、実験について、パネルディスカッション、タイムキーパーを14名の学生で分担し、それぞれの担当部分について構成を考え、原稿を作り、スライドを作るという作業を試行錯誤しながら行いました。また、登壇してくださる厳島先生、弁護団の先生方、支援の会の方々とも学生が連絡をとり、打ち合わせを行ったり、広報活動など裏方も学生の方で担いました。簡単な作業ではなかったため、各グループ悩み、何度も事件について復習する必要がありました。春休みということもあり、全員が予定を合わせて集まることができる日も少なく、夜遅くまでZoomによる打ち合わせをしたこともありました。しっかりと計画は立てていましたが、計画通りに進まないこともあり、その都度、みんなで話し合い何とか完成形までもってくることができました。


私は今回のシンポジウムでリーダーを務めましたが、メンバーそれぞれの現状を把握することの大変さと大切さを学びました。限られた時間のなかで、シンポジウムを完成させるためには、チームでしっかりと協力しなければいけません。今回のシンポジウムではいつもメンバーが助け合い、協力することができていたように思います。時には、弱音を吐きたくなるときもありましたが、準備期間はいつも、メンバー全員から「緒方さんを救いたい」という思いが感じられたような気がします。もちろん、反省点はありますが、今回のシンポジウムの準備期間は、全員が「緒方さんのために」という気持ちをもって取り組むことができており、学生ボランティアとしてさらに力をつけられた機会となりました。今後は、さらに学生ボランティアがえん罪救済に関してできる活動を増やしていきたいです。

〔甲南大学法学部3回生・西村友希〕

■目撃供述に関する再現実験について■

2024年3月30日に、甲南大学で神戸質店事件についてのシンポジウムを開催しました。神戸質店事件はIPJの支援事件で、現在は再審請求に向けて準備をしています。今回のシンポジウムは甲南大学IPJ学生ボランティアの1,2回生が中心となって企画、準備、運営を行いました。

 神戸質店事件は、第一審の神戸地裁では無罪判決が言い渡されましたが、大阪高裁での控訴審で逆転有罪となった事件です。この事件について、甲南大学IPJ学生ボランティアではIPJで支援するかを審査している段階から取り扱い、先輩たちの代から受け継がれてきました。なぜ控訴審で逆転有罪となったのか、その理由について私たちは判決文を読んで事件について学びました。そこから、目撃証言が問題であると考えました。この事件では、事件当日、事件があったとされる時間帯に元被告人である緒方秀彦さんを現場付近で目撃した、という目撃証言があり、この目撃者の供述が有罪判決の根拠となっています。他にも様々な状況証拠はありますが、それらが証明できるのは、緒方さんが現場となった質店に行ったことがあるということのみで、それ自体は緒方さんも認めています。目撃証言によって、犯行があったとされる時刻に緒方さんが犯行現場にいたと判断され、有罪判決が下されたのです。

しかし、それを決定づけるのは目撃証言のみであり、問題があると考えられます。それは、目撃者が供述をしたのが目撃した時から約1年10か月もたっていること、警察署における1回目の面割ではほかの人を「目撃した男性だ」と供述し、2回目の面割で被告人である緒方さんを目撃したと供述したことなどです。また、目撃は夜で、最初から緒方さんを見ようとして目撃したのではなく、たまたま近くを通りかかった際に目撃したと供述しています。人は、このような条件で目撃した人のことを1年10か月もの期間があいても正確に記憶できるのでしょうか。この目撃証言に信用性がないと言えるならば、緒方さんを犯人と決定づける証拠はなく、緒方さんを犯人と認定することはできないと考えられます。そこで、心理学の専門家である、人間環境大学の厳島行雄先生が、その信用性を検証するために本事件の目撃証言を再現して実験を行いました。この実験には甲南大学IPJ学生ボランティアのメンバーも協力し、当時目撃した場所には何があってどのような状況だったかを調べ、その状況を再現するのに適切な場所を探しました。

本シンポジウムではその厳島先生より、本件目撃証言の問題点や、目撃証言実験の結果について説明していただきました。私は本事件の目撃証言について、上記の通り、証言をしたのが目撃した時から約1年10か月もたっていること、1回目の面割ではほかの人を目撃した男性だと供述し、2回目の面割で被告人である緒方さんを目撃したと供述したことなどが問題点だと考えていました。ですが、厳島先生による問題点の指摘から心理学の観点から他に様々な問題があることを理解しました。まず、夜間の目撃であった点です。十分に顔を認識できたか、また、暗順応の最中であったのではないか、という点についての指摘でした。他には捜査段階についても問題点を指摘されていました。それは、事件を捜査した警察官が事情聴取をしたことで、意図的でなくても目撃者が知らない事件についての情報が伝わるという点です。それを防ぐために、例えばイギリスでは捜査を担当した警察官は取調べを担当しない、ということを徹底し記憶を汚染しないようにしていますが、本事件ではそうではなかったのでは、という指摘でした。

厳島先生が考える問題点はこれだけではありませんでしたが、私は特にこれらを考慮して目撃証言の信用性を判断すべきだと感じました。また、私達学生が協力させていただいた再現実験の結果についても印象的でした。実験では、本事件での目撃証言と場所や目撃した状況を再現して実際に被験者に目撃してもらい、2週間後に面割台帳を用いて、当日見た被目撃者を10人の中から選択してもらいました。その結果、実際の証人と近い条件での正答率は3パーセントでした。これはランダムで10人のうち1人を選んで正答できる確率の10パーセントよりも低く、本事件のような目撃では記憶に基づいて答えることができた人はいない、ということが言えると思います。シンポジウム内で厳島先生もおっしゃられていましたが、本当に意義の大きい実験だなと感じました。

私は、先輩達の代から長い間扱ってきた神戸質店事件について、実験を手伝い、その結果緒方さんの無実を証明するために有力なデータを得られたこと、シンポジウムという形でこの事件を多くの方に知っていただく活動ができたことをとても嬉しく思います。また、このシンポジウムから本事件の問題点を知っていただくこと、少しでも緒方さんの力になれれば幸いです。今後も再審請求に向けて、微力ではありますが私たち学生に出来ることを続けていこうと思います。

〔甲南大学法学部3回生・SK〕

■パネルディスカッションから学んだこと

2023年度末に甲南大学にて神戸質店事件シンポジウムが開催されました。このシンポジウムでは、神戸質店事件という事件を取り上げながら、再審制度を含む日本の司法制度について考えることをテーマに行われました。


まず、神戸質店事件がどのような事件であるのかを知るために、先輩たちとともに一審・控訴審の判決文を読み進め、さらに詳しい事件当時の状況などについては弁護士の戸谷嘉秀先生に教えていただき、理解を深めました。

本件は第一審では無罪判決を言い渡されていたのに対し、控訴審では無期懲役の逆転有罪判決が下されました。
決め手は目撃証言にあり、事件当時のその時その場所にいたという証拠になるから、というものでした。しかし、その目撃証言は年月が経過しており、目撃した時間帯が夜、かつ短時間だったことから正確性に疑問が残ります。そこで今回のシンポジウムでは、以前にIPJで実施した目撃証言の実験の結果を専門家である厳島行雄先生からお話をいただきながら、この事件の問題点について考えていくという方針で進めていくことになりました。

私はこのシンポジウムで、主にパネルディスカッションの司会をメインに担当しました。弁護士の先生方、実験に携わっていただいた厳島先生とパネルディスカッションをするにあたり、先生方への質問を考えるところからスタートしました。神戸質店事件の概要や実験のことについて先生方のご意見を伺う質問や、なぜIPJがこの事件の支援を決めたのかというような私たち学生も気になることをこの機会に質問しよう、ということで学生4人が各々で質問を考えました。さらにパネルディスカッションでは、日本の司法制度の問題点に切り込むために、再審制度についての質問も考えました。再審制度では、再審を請求するためには明白な新しい証拠がないといけませんが、証拠を得るための証拠開示がないことなど多くの問題があり、その問題をどう考えるのかを質問することにしました。質問案を先生方と共有し、質問に対してどのような答えを導くのかを考える会議を経て、本番に挑みました。

パネルディスカッションは先生方とのやり取りになるので、その時になってみないと議論の方向性がわからないという不安もあり、念入りに準備を進めていました。本番では内容が盛りだくさんな上に、先生方同士で質問しあう場面もあり、予想以上に活気溢れるパネルディスカッションになりました。

私はパネルディスカッションの担当ではありましたが、1人の学生として、先生方のえん罪という問題解決への努力や熱意に心が動かされました。パネルディスカッション内で川﨑先生が「社会全体でえん罪という問題を考える必要がある」と仰っていました。私は大学生になってえん罪という深刻な問題に向き合う中で、まずは問題を知ってもらうことがどれほど大切かを痛感しました。今回のシンポジウムのように、より多くの人に知っていただくための活動をこれからも続けていきたいです。

〔甲南大学法学部2回生・MY〕