IPJ学生ボランティアが浜松市で袴田巌さん・ひで子さん、袴田事件支援者の皆様と意見交換しました!

 1966年に静岡県清水市で発生した強盗殺人・放火事件。いわゆる「袴田事件」については来月13日、再審を開始するかの判断を東京高等裁判所がすることが決まっています。2014年に静岡地裁で再審開始決定がなされ、死刑が確定し拘置されていた袴田巌さんは釈放されました。しかし、検察官の抗告によって再審開始は上級審で取り消され、さらに最高裁が東京高裁に事件を差し戻して、その差戻審の判断が来月なされる見込みです。一刻も早く、袴田さんに「真の自由」を!

 袴田巌さんは、現在、姉のひで子さんと浜松市にお住まいです。2月18日に地元の支援者団体「袴田さん支援クラブ」が講演会を開催し、イノセンス・プロジェクト・ジャパン副代表の笹倉香奈がイノセンス運動に関する講演を行いました。講演会に甲南大学および龍谷大学のIPJの学生ボランティアが同行し、巌さん・ひで子さん、支援者の皆様と交流しました。アレンジしてくださいました猪野待子さんはじめ支援クラブの皆様、本当にありがとうございました。

 学生たちは袴田事件の再審開始決定をした元裁判官の村山浩昭先生の講演を2022年の夏に甲南大学で聞いています。この度、当事者にも会って意見交換をすることにより、えん罪問題について、より深く実感することができました。

 参加した学生によるレポートをお読みください。                      〈笹倉香奈〉

【参考:当日の様子に関する報道です】 中日新聞 「無実信じ支援脈々 「袴田さん救いたい」勉強重ね

                 静岡新聞「袴田さん支援団体 アメリカの冤罪救済学ぶ 浜松で勉強会

講演会後、袴田家で巌さん、ひで子さん、袴田弁護団事務局長の小川秀世弁護士と一緒に

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社会を変えられるのは市民だと実感 

                                   〈甲南大学法学部1回生 岡本望寿〉
 浜松で開催された袴田事件の講演会に参加しました。袴田ひで子さんからのご挨拶のあと、袴田事件弁護団長の小川秀世先生から事件の現状や、東京高裁で来月言い渡される差戻審決定への意気込みが語られました。笹倉教授の講演の後は、茶話会で袴田さんを支援されてる方々との意見交換をして袴田さんのご自宅を訪問し、巌さん・ひで子さんと直接お話をさせていただきました。
 茶話会では袴田さんを支援されている方々の袴田さんへの思いや優しさが伝わってきました。
袴田さんは47年間という想像し難いほどの長い間、身体を拘束され、毎日待っていたのは「死刑執行の日」だったそうです。いつ来るか分からない自分の死を待ち、「今日は生きることができた」と思いながら毎日たった3畳しかない拘置所で過ごしていたことは本当に衝撃的で、心が痛くなりました。
 袴田さんを支援する人はとても多く、社会を変えることができるのは市民であると改めて知る有意義な機会となりました。来月3月13日に控えている東京高裁の決定の直前に、貴重な経験をさせていただきました。日本の裁判制度の改革やえん罪の根絶のために、私も一市民としてより一層ボランティア活動に参加していきたいです。
                   

巌さんが「真の自由」を取り戻せますように
                                   〈甲南大学法学部1回生 藤井春奈〉
 袴田巌さんは、いつ自分が死刑を執行されるのかという極限状態での長い獄中生活の中で精神を病まれ、自分はすでに無罪判決を言い渡されたと思い込むようになり、すでに無罪判決が確定したのだからと、周りから応援されることを良く思わないようになりました。これは巌さんを支援されている白井さんが、「袴田巌さんは、自分はもう完全に自由の身であると思っている」「だから、巌さんを『応援する』という表現を使うときに心が痛む部分もある」 というお話をされて初めて知りました。
 私は、巌さんは自分を支援する多くの人たちとともに、自らの無罪を勝ち取るために積極的に活動されているものだと勝手に思い込んでしまっていたので、このお話を聞いた時に衝撃を受けました。
 講演会の後には、袴田さんのお宅を訪問しました。巌さんは穏やかな様子でした。その周りをお姉さんのひで子さん、支援されている方々と私たちで囲み、お話ししました。笑いの絶えない温かな雰囲気でしたが、みなさん事件についての話題は避けるようにされていたのが印象的でした。
 巌さんを支援する方々やひで子さんは、巌さんが〈真の自由〉を取り戻すことができるように、熱心に活動をされています。巌さんの毎日の外出について行く「見守り隊」もおられ、とても心強い味方が沢山いらっしゃいました。
 実際にえん罪事件の当事者として戦っている方や支援者のお話を聞くことができた、とても貴重な機会になりました。また、私たち学生ボランティアが今回の講演会に参加したことをとても喜んで下さる方がたくさんいらっしゃいましたので、とても励みになりました。自分自身も冤罪にかかわるボランティアの一人として大きく成長することができました。これからもIPJの活動に尽力していきます。

支援者の力を感じて
                                      〈龍谷大学3回生 三須愛子〉
 私は、IPJに所属してまだ1年で、えん罪について少し分かってきたかなと思って来たところです。しかし、今回袴田さん、袴田さんを支える方々に実際にお会いしてお話を聞き、袴田さんが事件に巻き込まれてから57年という歳月が過ぎていることの重みを改めて感じました。
 また、2017年から毎月支援の会を開催できるほど、多くの方々が袴田さんの無実を信じ支援に繋がっているのは「えん罪は存在するということ」が支援者に伝わっていること、また、弁護団の方々が対等に、密に支援者と交流していることが理由だと考えます。さらに、えん罪事件は決して他人事ではないということが、弁護団・支援者の方々の活動を通して市民に伝えられているようにと思いました。これだけ多くの市民の方々に支えられ、無実を信じられている袴田事件について考えることは、私たちがIPJの活動の中で日々悩んでいる「社会の人たちに何を伝えたら、えん罪を身近に感じてもらうことができるか」の答えに繋がるのではないかと感じました。今後の活動では、そうしたことを意識して頑張っていこうと思います。  

一人ひとりが尊重される司法へ
                                〈龍谷大学2回生・N〉            

 私は先月IPJのボランティアに加入しました。
 今までボランティアの経験等はほとんどなかったので、イベントでの簡単な自己紹介でさえ上手く話せませんでしたが、平凡な私だからこそ今回多くの学びを得ることができました。
 袴田巌さんの無実を信じて何十年と戦い続けてきている方々、現在の袴田さんの生活を支える方々、そして巌さんとお姉さんのひで子さんと実際に会ってお話をさせていただき、報道や書籍でしか見ることのなかった「冤罪」が身近なものに感じられました。
巌さんは甘いものが好きだと仰っていたのが印象的です。ひで子さんは90歳とは思えないくらい立ち姿が綺麗で、とても柔らかい笑い方をされていました。そこにはたくさんの人に囲まれた仲のいい姉弟がおられました。そんなお二人と会って、人はどのような境遇にいようとも一人の人間として尊重されるべきだと強く感じました。
 日本の司法はもっと良いものにしていけるはずです。そのために、IPJボランティアとしての活動にこれからも貢献できれば嬉しいです。

集会でIPJボランティアの紹介をする学生たち
袴田事件弁護団の小川秀世弁護士や支援者たちと茶話会で意見交換