【学生ボランティア(甲南大学)】映画監督・周防正行さんの講演会を甲南大で開催!龍大・近大メンバーも参加しました!

 甲南大学IPJボランティアは、12月5日に映画監督の周防正行さんをお招きして講演会を開催しました。講演会には250名以上が参加し、周防監督のお話に聞き入りました。甲南大のメンバーだけではなく、龍谷大・近畿大からも学生ボランティアメンバーが駆けつけてくれました!

 周防監督は、映画「それでもボクはやってない」(2007年)で、痴漢事件を素材に、日本の刑事司法制度を生々しく描き出されました。映画を撮るきっかけは、2002年12月に朝日新聞で監督の目に留まったある記事でした。東京高等裁判所で逆転無罪判決が言い渡されたばかりの、いわゆる「西武新宿線痴漢事件」が無罪判決に至るまでのプロセスについて記したものでした。1審で有罪判決が言い渡された同事件では、当事者の友人らが、当時の電車内の状況では痴漢行為をすること自体が不可能であったということを示す実験に協力し、無罪判決を勝ち取ったのでした。周防監督は、その後3年かけて、当事者や法曹関係者へのインタビュー、裁判傍聴、文献調査などによる取材を行ってシナリオを書き、映画の撮影が開始されました。

 当時の日本の刑事裁判は書面のやり取りを中心とするもので、「調書裁判」とも批判されていました。刑事裁判の取材をする中で、周防監督は、いくつかのことに驚いたと言います。まずは「人質司法」です。日本では、取調べで自白をせず、黙秘や否認をする被疑者・被告人の身体拘束が長引くという状況があります。自白をしないことは逃亡や証拠隠滅の可能性を高めると、裁判所に判断されてしまうからです。このような状況は、被疑者・被告人を人質にとって自白を迫るものであるとして、以前から国際社会からも批判されてきました。現在なお、この状況はつづいています。

 監督は、捜査機関が集めた証拠が、被告人・弁護人に対して開示されないことについても、衝撃を受けたとのことでした。それまで監督は、刑事司法は公正に運営されていると思っていましたが、実態を見てショックを受けたのでした。

 丹念な取材の結果撮られた「それでもボクはやってない」は、日本の刑事裁判をあまりにもリアルに描き出しています。2009年には裁判員裁判が始まりましたが、裁判員裁判の対象となるのはもっとも重大な事件のみ。現在なお、映画で描かれているような事件の裁判は、ほぼ当時と同じような手続で行われており、いまでも「それでもボクはやってない」は、古い映画ではないのです。それだけ、日本の刑事司法の制度改革が進んでいないということなのでしょう。

 2010年には、いわゆる「厚労省元局長・郵便不正事件(村木事件)」で、大阪地検特捜部の検事が証拠改ざんをしたことや供述の強要が行われたことが明らかになり、検察のあり方に関する議論が進んで、司法制度改革の機運が高まりました。周防監督は、2011年から2014年にかけて、刑事司法のあり方について議論を行った法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」に有識者として参加されました。講演では、特別部会において、「人質司法」や証拠開示のあり方について問題提起がなされたにもかかわらず、裁判官、検察官のみならず、多数の刑事法研究者から改革に消極的な見解が出され、愕然としたことなどが語られました。

 周防監督は特別部会でのご経験について、『それでもボクは会議でたたかう――ドキュメント刑事司法改革』(岩波書店、2015年)で克明に記録されています。

 周防監督はまた、大崎事件や今市事件などのえん罪事件の弁護活動にもかかわられ、「再審法改正をめざす市民の会」の共同代表として、えん罪事件の救済のためにあるはずの「再審(やりなおしの裁判)」の手続についても、問題提起をされています。

 講演の終わりに監督は、一般市民も現在の刑事司法制度において何が起こっているのかを知ることが重要であると強調されました。

えん罪救済プロジェクトではこれからもえん罪の問題について多くの方に知っていただくために活動をしていきたいと思っています。

 講演を聞いたメンバーの感想を、ぜひお読みください。

【事務局長・笹倉香奈】

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 甲南大学IPJボランティアは、映画監督である周防正行監督にお越し頂き、日本の刑事司法制度だけでなく、えん罪問題全般についての講演会を開催しました。イベントには甲南大学IPJ学生ボランティアだけでなく、近畿大学、龍谷大学の学生ボランティアも参加しました。

 「10人の真犯人を逃すとも、1人の無辜(むこ)を罰するなかれ」。この言葉は「例え10人の真犯人を逃したとしても、1人の無実の人を決して罰してはいけない」を意味する法格言です。周防監督の講演の中では、今の日本の刑事司法では「10人の真犯人を逃すくらいであれば1人の無実のえん罪被害者が生まれても仕方がないのではないか」と運用されているように見受けられる点、つまり、真犯人を逃すことを恐れているという面があるのではとの指摘がありました。

 日本の大きな問題である人質司法の例についてもお話がありました。周防監督が作成した映画「それでもぼくはやってない」についてのお話の中では、本映画の作成にあたって、いわゆる「西武新宿痴漢事件」の影響があったことがわかりました。

 この事件で犯人とされた会社員の男性は2ヵ月間もの間、勾留されました。第1審では懲役1年2月の有罪判決を言い渡されましたが、支援者の支援によって行うことができた実験の結果などにより、控訴審で無罪判決を勝ち取りました。第1審は、物的証拠がないのにも関わらず、男性の供述の信用性を否定し、被害者供述には信用性があるとしてしまったようで、「疑わしきは被告人の利益に」という刑事司法の鉄則が守られていないように思いました。周防監督は、この問題についても「知ること」によって考え方を深めていく必要があるとおっしゃっていました。

 今回の講演の中では、痴漢事件のえん罪の問題だけでなく、大崎事件の再審請求の問題点にもお話があり、とても驚きました。大崎事件については以前行われた鴨志田祐美先生(京都弁護士会、大崎事件弁護団事務局長)のご講演で内容は知っていたのですが、再審請求に関する日本の司法制度の問題については本講演会に参加するまでまだまだ知りませんでした。

 再審が開始されるまでには、新たな証拠が必要とされています。大崎事件では、第3次再審請求で、地裁・高裁が再審開始を決定したにもかかわらず、最高裁で再審開始決定が取り消されてしまいました。原口アヤ子さんは1980年に懲役10年を言い渡され服役後、再審請求を行い、現在は第4次の再審請求が行われています。約40年前の事件は、まだ再審公判すら始まっていません。「裁判を受ける権利」が保障されているはずなのに、再審は「裁判」には該当しないのでしょうか?

 現状が変わるためには何よりも世間の関心であると、周防監督もおっしゃっていました。今回の講演で触れられた数々の事件だけでなく、これまでのえん罪事件及び人質司法の存在を認識する重要性を感じたと同時に、多くの人に対してえん罪の問題を知ってもらえるよう、これからの活動に尽力していきたいと思っています 。

 周防監督、今回は貴重な経験をさせて頂き本当に有難うございました。

【甲南大学法学部1回生・京本真凜】

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 12/5に甲南大学で周防正行監督の講演会が行われました。

 有名な「シコふんじゃった。」や「Shall we ダンス?」などの作品を制作された監督です。そして私たちIPJとの関わりとして重要な作品は「それでもボクはやってない」ではないでしょうか。

 ご存じかと思いますが、この作品は痴漢事件を題材にしたものです。痴漢事件、特に条例違反事件では、罪を認めれば罰金刑が言い渡され、前科は付くものの、ほとんど身体拘束を受けることなく社会に復帰することが少なくありません。一方で無罪を主張した場合、1つの事件で起訴前だけで最大23日間の身体拘束が行われ、起訴後では2ヵ月+1か月ごとに更新になり非常に身体拘束が長期化する傾向にあります。

 この記事をお読みの皆さん自身にも考えていただきたいのですが、今、逮捕されると起訴までの最大23日間と、起訴後の数か月から場合によっては数年続く身体拘束が行われたらどうでしょうか。会社にお勤めの方はクビになるかもしれません。お勤めされていない方でも、急に逮捕され、23日間も閉じ込められれば家族、学校、友人、ご近所関係、あるいは精神などに影響があるのは想像に難くありません。「それでもボクはやってない」は、そんな刑事司法のあり方に一石を投じ社会現象となった映画です。この映画は2007年に公開されたもので、実際にあった西部新宿線痴漢事件がモデルとなっており、逮捕勾留や取調べ、公判の様子などが忠実に再現されています。驚かれるかもしれませんが、被害者の供述が強く信用されることや、取調べの制度などは、2023年現在も大きく変わっておらず、10年以上経ったいまにも通じるものがあります。

 監督は、ある弁護士から聞いた話を紹介してくださいました。

 とある女性は、痴漢えん罪で捕まっている旦那さまに対して面会でこう言ったそうです。「私はあなたの無罪を信じているが家族のために罪を認めて出てきてほしい」

 この女性は「それでもボクはやってない」をご覧になり、無罪を勝ち取るにはどれほどの時間と労力が必要かということに圧倒され、こう発言されたようです。自身の映画を見て、虚偽の自白をした方が効率的だと思う人が出てしまったことを監督は複雑に感じられていました。
罪を犯していない人が罪を犯したことにした方が“まし”と思える制度は、早急に改正するべきではないでしょうか。例えば、人質司法の原因の一つと言われる違法な取調べを防ぐために、取調べへの弁護人の立会いを認める国が増えています。今や、取調べに弁護人が立ち会えない東アジアの国は中国、北朝鮮そして日本だけだそうです。日本の制度が海外に取り残されつつあるのは明白です。

 最後に監督は私たちへのメッセージとして、布川事件のえん罪被害者の故・桜井昌司さんの言葉を紹介してくださいました。

 「えん罪の活動は楽しんでやらなければならない」

 どうしても活動中は肩肘を張ってしまいがちですが、それだと活動は広がらないし持続もしません。私自身、この活動を通じて多くのことに驚き、新しいことを多く学びました。時には現実を知り悩みました。一方で多くの方々と出会い、同じ活動ができることに喜びも感じています。今の私の心には、強く深く響いたメッセージでした。非常に貴重な経験をさせていただいてることを感じながら、前を向いて走っていきたいです。

      【龍谷大学3回生 S.K】

*この投稿は、甲南大学地域連携センターのウェブサイトにアップされたものに、大幅に加筆したうえで許可を得て再掲したものです。