獨協大学では、狭山事件の弁護団のお一人である河村健夫弁護士にお越しいただき、ご講演いただきました。
狭山事件とは、1963年に起きた女子高生に対する強盗殺人等の事件で、無期懲役判決を受けた石川一雄さんが無実を訴え裁判のやり直しを求めている事件です。女子高生が行方不明になった後、自宅に身代金要求の脅迫状が届けられたのですが、警察は指定の場所に身代金を受け取りに来た犯人を取り逃し、世間から大きなバッシングを受けました。そうした状況の中で、警察は狭山市内の被差別部落出身者に対する見込み捜査を行い、石川さんを別件で逮捕します。その後、本件についての取り調べが続けられ、自白が引き出されました。 2006年5月に第3次再審請求が行われ、河村弁護士はその時期に弁護団に加わったそうです。この第3次再審請求審が、2024年になった今も続いています。
私自身、ゼミの活動として狭山事件について調べ、捜査や滞る再審請求手続きの問題点について知ったつもりでいましたが、弁護団の先生から、直接、具体的な解説をしていただき、愕然とすることが多くありました。
例えば、犯行に使われた手ぬぐいを巡る問題があります。手ぬぐいは、とあるお店の宣伝用として、近隣地域にのみ配られたものであったため、捜査機関は配布先とみられる家々を訪問し、手ぬぐいを提出できない人物を探しました。石川さんの家にも警察の訪問があり、手ぬぐいは提出されました。そうであれば、この時点で嫌疑が外れるはずですが、そうなりませんでした。警察は、捜査を察知した石川さんが、他から入手して手ぬぐいを提出したというストーリーを考えたようです。警察は、配布先の家ごとに、お店からもらった手ぬぐいの本数と、警察に提出した本数を記録していました。その記録には、石川さんに手ぬぐいを提出したとされる人物の欄には、配布された本数は2、警察へ提出された本数は1と記載されています。ところが、ご講演の中でこの「2」の拡大写真を見せていただいたところ、当初は1と書いてあったものに後から線を書き足して2にしたようにしか見えません。私は、これは明らかな改ざんであると思いました。同時に、これが国の機関がすることなのかと、とても衝撃を受けました。
他にも、石川さんの家で発見された、被害者のものとされる万年筆に入っていたインクが、実際に被害者が使っていたインクと違う種類のものであったことや、脅迫状と石川さんの書いた上申書の文字は明らかに別人の書いた文字に見えることなど、これで石川さんを有罪とするのかと非常に強い疑問を感じました。とても捜査が強引で、無理のあるものだったと感じました。
再審請求に関しては、裁判所に対し、証人尋問などの「事実調べ」を行ってもらうよう働きかけることが何より重要であるということを知りました。再審を勝ち取るためには事実調べが必須であるのに対し、法律上は必要に応じて行えばよいとされていることは疑問に感じます。再審法の改正が必要であると思いました。また、証拠の全面開示や検察官による不服申立ての廃止も必要に思います。袴田事件では、2014年に再審開始決定が出たにもかかわらず、検察官から不服申立てがなされて長引き、昨年ようやく再審が始まりました。有罪か否かは再審請求審で決めることではなく、再審で判断することですから、検察のむやみな不服申立ては、真実究明にも悪影響をもたらしていると思います。
最近の狭山事件の状況については、三者協議が行われるものの、証人尋問をするか否かが決まらなかったり、裁判官が定年により交代されたりと、なかなか進まない状況にも問題が多いと感じました。
最後に、今回のご講演を伺い、冤罪問題が決して他人事でないということを強く実感しました。私自身石川さんが無実であることを確信していますが、今現在も「仮釈放中」という扱いを受けることにとても胸を締め付けられます。再審開始が認められ、石川さんに正しい判断が下されることを心から願っております。
獨協大学3年 K.N.