2023年8月2日。私が初めて大阪拘置所へ今西さんの面会に行った日です。「未決勾留(まだ刑が確定していない)、一度は有罪として刑を言い渡された今西貴大さんとお会いすること」に対して、不安な思いを抱いて拘置所までの道を歩いたことは今でも覚えています。
今西さんは面会で、気さくに話しかけてくださり、大学生活のことや、彼自身がどのような本を読むのかなどをお話しました。「次の公判、行きますね!」「また面会、来させて下さい!」。面会終了のタイマーがなった際に「ありがとう」と言って、毎回手を振って下さる姿を見ると、今日の面会が終了し、今日はもう今西さんとお会いできないのか、なぜ、今西さんは長い間一人で拘置所に収監されてるのかなぁと、言葉では言い表せない感情を抱いていました。
そして迎えたのが2024年5月21日に大阪高裁で行われた控訴審の最後の期日です。これまで同様、朝早くに整理券の抽選があり、多くの支援者やメディアが傍聴券を求めて受付口に並びました。本件は、21人の専門家が出廷した異例の事件ということもあって、多くの方が注目していることを実感しました。
この日に行われたのは、最終弁論です。検察側と弁護側の主張が行われます。多くの傍聴者でいっぱいの法廷の雰囲気はこの日で結審ということもあり、これまでの公判期日とはまた違った重みというか、張り詰めた空気が漂っていました。3年強にわたった控訴審がついに終わるのだと実感しました。
先に弁護側の弁論がなされ、弁護人の秋田真志弁護士からは傷害致死事件に関する弁論がありました。証言台の前で裁判官たちに訴えるような圧巻の弁論は、初学者の私でも何を伝えたいのかが明白でした。秋田弁護士は、「正しい医学的知見、論理、経験則に基づいた正しい判断を」という導入の後に、EBM(エビテンスにもとづいた医学)に関連して、本件の医学的証拠に関する問題点を指摘したうえで、最後に「(一審の有罪判決は)誤判である」と結びました。この弁論を聞いて、エビデンスレベルや信用性が低いとされる、経験だけを根拠とした検察側医師の証言に信用性があると言えるのか、非常に疑問に思いました。
強制わいせつ致傷事件に関する弁論では、主任弁護人の川崎拓也弁護士が冒頭に、「私たちは1センチの傷、1円玉の半分の大きさの傷の原因について議論している」と述べました。本件で、検察側の医師は、「私にはこのような【経験】がない。だから、この所見は一般的ではない。つまり異常である」と証言しましたが、その証言の科学的根拠がないことについて触れられました。川崎先生が弁論の最後に述べた「(ずっと拘置所に入っている)今西くんの時間は、この裁判により止まってしまっている」との言葉を聞いて、私は涙が自然とこぼれました。
「疑わしきは被告人の利益に」
刑事司法の原則であるこの言葉は、証拠や立証が不十分である場合には、被告人を無罪として扱うべきであるし、検察官の主張立証に疑わしい点があれば、無罪判決を言い渡さなければならないというものです。この言葉に即して考えれば、これまでの証拠を思い返してみると、今西さんは無罪でなければならないのに有罪となってしまったのだと改めて感じました。
2024年11月28日10時30分に、大阪高等裁判所201法廷にて控訴審判決が言い渡されます。今西さんが拘置所に収容されてから約6年の年月が経とうとしています。被疑者や被告人を長期間勾留する日本の状況は「人質司法」と呼ばれ、世界的に批判されています。この現状を知らない方々に問題を認知して頂けるよう、学生ボランティアも広報活動に取り組んでいきたいです。
川崎弁護士は弁論で、今西さんが「裁判所には、普通の判断をしてほしい」と言っていたとおっしゃっていました。そうなることを心から願っています。
甲南大学 2回生 京本真凜