【コラム】韓国の科学捜査が凄い!-韓国調査旅行記(4・完)ーソウル警察庁

「晩秋之両班館」(平岡):韓国の、とある山村にある両班館(ヤンバンの家)。

 ソウル警察庁の捜査副長官の下に捜査部があり、捜査課・刑事課・サイバー捜査課・科学捜査課・汚職公共犯罪捜査課・経済犯罪捜査課・重要犯罪捜査課・麻薬組織犯罪捜査課で構成される。刑事課は重要犯罪と暴力犯罪の捜査を担当し、捜査課はその他の刑事犯罪の捜査を担当する。ここで注目されるのはこれとは別に「重要犯罪捜査課」があって殺人事件などの凶悪犯罪の捜査を担当しており、これは日本の捜査本部事件捜査に対応する。異なる点は、韓国の重要犯罪捜査課は常設であるのに対し、日本の捜査本部は臨時であることである。韓国では常設であることにより、NFSのDNA型鑑定支援を得て未解決事件の捜査を実施している(https://www.smpa.go.kr/user/nd83854.do)。

 ソウル警察庁の捜査部には科学捜査課があり、ここには科学捜査管理課とKCSI(Korea-Criminal Scene Investigation:犯罪現場捜査班)が所属している。KCSIは、犯罪現場からの物的証拠の収集を担当しており、さらに指紋鑑定や血痕検査など、一部の科学鑑定を業務としている。KCSIは日本の鑑識課に相当する部署であるが、その活動範囲が単に証拠資料の採取だけではなく、国立法科学研究院などと連携し、2015年から法科学に関する国際会議を開催しているのである。その内容は日本の鑑識レベルとは格段に高いものが垣間見られる(https://kcsi.go.kr/kcsi/main/conference/mainConferencePageEng.do)。

 2020年の国際会議(CSI KOREA 2021)の一部を掲載する。

⑴ New Technology in crime scene investigation,  Henry C.Lee (New Heaven大学)
 現代の法執行機関は、高度な法医学技術と標準化された犯罪現場鑑識手順の導入により、犯罪を解決する能力を大幅に拡大している。今日、犯罪は多くの場合、犯罪現場の詳細な鑑識、科学的証拠の鑑定、および犯罪現場の復元を組み合わせることで解決可能である。

⑵ Forensic DNA phenotyping, distant kinship inference and genetic genealogy from genome-wide SNPs, Ellen McRae GreyTak(Parabon NanoLabs, Inc生物情報学部長)
 Genome-Wide SNPsは従来のSTR 型DNA鑑定による家族検索とは異なり、行方不明者(または身元不明者)のDNA型と家族を結びつけ、犯人の身元を特定するのに応用可能であることからコールドケースの解明に道を開くものである。

⑶ Is forensic science still in crisis? – A different perspective on nomenclature, risk and scientific reasoning, Claude Roux (シドニー工科大学法医学センター所長) 他
 アメリカ合衆国で法科学の脆弱性が指摘されたことふまえ、法科学コミュニティの鑑定・研究・教育の長期的な改善策が必要である。アメリカ合衆国で発覚した「バックログ問題」以後、エラー率、バイアス、専門分野の断片化、基礎的な研究と原則の欠如、教育の格差、適応力の欠如など定期的に議論されてきた。演者は法科学を一般の科学と対比することにより、用語法・エラー率・推論法を述べている。

平岡 義博(ひらおか・よしひろ)