【コラム】台湾の法科学も進んでる!(3)台湾の各法科学研究所と科警研との比較

法科学研究所の信頼性保証の必要性

 台湾・韓国・日本の各研究所の現状を図表5に示した。台湾の法科学研究所は、調査した範囲ではすべてISOの認証を受け鑑定の品質管理を徹底しており、法令に基づいて各法科学研究所で分担して日常的に鑑定業務を遂行している。韓国でも国立の法科学研究所で最高位の法科学研究院も認証を得て、日常的に鑑定業務を実施している。

 ISOの認証は、研究所で実施される検査の信頼性必要な基本的な要件(研究所としての設備、正確な検査、誠実な品質管理と教育)などが求められ、第三者機関による認証をうけることで一定の信頼性が保証される。世界の研究所ではこの認証を受けることが潮流となっているが、法科学研究所においてはさらに厳格な認証を受ける機関が増えている。

 また、法令の根拠に基づいて資料採取や鑑定を実施することは、独善的な手続きや過誤を防止することに役立ち、社会の目線からも透明性が確保される利点がある。さらに、韓国の法科学研究院のように、訴追機関から独立することによって、鑑定職員が捜査に迎合したり、捜査からのバイアスや圧力に曝されたりすることを防止できることから、科学鑑定の信頼性を保証することに有効である。

日本の現状と今後

 このような点から見れば、台湾においては司法職員が鑑定に従事する研究所があり、捜査に貢献することのみに偏るのではないか、という懸念が払拭できない。科学的方法や結論は、本来、科学の領域であって、司法の利害関係者の意向とは無関係なはずなのである。そのためには、鑑定職員が専門科学に専念できるような環境が必須であり、訴追機関から独立していることが求められるのである。台湾では、法務部の法医研究所が将来独立する方向で模索されているとのことである。

 このような東アジアの動向に反し、日本は一国、取り残されている感がある。図表5を一見すればその隔たりは顕著である。そもそも科警研の業務は研究ということになっていて、特に重要な事件以外は日常的に鑑定することがない。日常的な鑑定業務が無いため、鑑定倫理綱領もISO認証も不用ということかもしれない。しかし、地方の科捜研の頂点に立つ科警研であれば、鑑定業務や鑑定の品質管理を地方の科捜研に任せておくことは無責任といえる。DNA型鑑定が開始された時のように、各種の科学鑑定についても標準鑑定法を示すべきである。そして最も憂うべくは、品質管理の重要性や科学鑑定の信頼性評価についてほとんど関心を示さず、鑑定の信頼性の研究や教育を行おうとしないのである。

 科警研は鑑定実務をしないので、品質管理の必要性を感じることができないのであろう。科警研は地方の科捜研に世界の法科学の現状を伝えないので、科捜研職員は法科学のあるべき姿など考え及ぶことすらできない。この法科学コミュニティーは鎖国状態で、機能不全に陥っている。

 日本の法科学が世界の潮流と肩を並べられるようになるには、科警研を頂点とした法科学コミュニティーの内部努力ではほとんど望みはなく、自力で改革したとしてもそれは不完全なものにしかならないであろう。従って、大学や民間の科学研究者・技術者から成る第三者委員会を立ち上げ、現状認識から始めて世界水準の法科学に育成するためのプログラムを研究する必要がある。

平岡 義博(ひらおか・よしひろ)

(4)に続く