2024年3月7日と8日、スイスのジュネーヴにて開催されたEuropean Innocence Network Conferenceに参加しました。
アメリカで1990年代に始まったえん罪救済のためのイノセンス・プロジェクト。この動きは地域や国を超えて、現在はヨーロッパやアジアにも広がっています。今回のヨーロッパ・イノセンス・ネットワーク大会は、スイス、イタリア、オランダのイノセンス団体代表のウェルカムメッセージから始まりました。
続いて、イノセンス・プロジェクトのアメリカでの立ち上げ人、つまり世界初のイノセンス・プロジェクト立ち上げ人の1人であるバリー・シェック氏による講演がありました。イノセンス運動に関わる者にとって伝説的存在ともいえるシェック氏がえん罪とのこれまでの戦いを振り返りつつ、未来に向けて力強く問題提起する姿は圧倒的でした。
そして、科学鑑定とえん罪の関係についての法医学者からの報告、本格的に始動したヨーロッパえん罪データベース(EUREX)について法心理学者(legal psycologist)からの報告が続きます。えん罪問題の解消に向けては、法律だけでなく様々な学問領域からの分析が必要かつ有効であることの理解が深まるセッションでした。
参加者たちがとりわけ熱心に聞き入っていたのは、イタリアのえん罪当事者の体験談です。友人を殺害したという疑いで21年間服役したのちに雪冤を果たした男性が、それを支えたイタリアの法学者と共に登壇しました。警察がイタリアの特定地域の方言を知らずに「機械」と「死体」を間違えたことが誤った有罪判決に繋がったこと、その誤りを明らかにしていく経緯、親しい友人を失った悲しみと向き合う機会や家族と過ごす時間を奪われた悲しみと苦しみなど、えん罪という問題の根深さに言葉を失う参加者も少なくありませんでした。
翌日は、国連人権委員会のメンバーであるLaurence Helfer教授を招き、イノセンス団体がえん罪問題のために国連の人権メカニズムをどう活用すべきかが論じられました。次いで、北アメリカ、ヨーロッパ、アジア、ラテンアメリカ、イギリスのイノセンス団体から活動概要と成果、そして課題の報告がありました。IPJからは、台湾イノセンス・プロジェクトとIPJを中心に、これまでに雪冤を果たした事件と現在支援中の事件を紹介した上で、人質司法の問題にも言及しました。これらの報告により、法制度や実務の違いはあれども、えん罪の原因の多くに共通点があることが示されたわけです。なにより、えん罪が生み出す悲劇の大きさは世界共通です。総じて、えん罪問題には国際的な取り組みが不可欠であり、国連の積極的な関与を求めるべきことが明らかとなりました。
その他、イノセンス運動における喫緊の課題の一つとして、人工知能(AI)により生み出されるえん罪の危険性を取り上げたセッションもありました。なお、今回の大会では、アメリカのイノセンス団体もまた大きな役割を果たしていました。オハイオ・イノセンス・プロジェクトを率いるマーク・ゴッドシー氏がコーディネーターとして活躍し、イノセンス・プロジェクト代表のメレディス・ケネディ氏はイノセンス運動を社会に根付かせるための組織運営のあり方を示しました。イノセンス団体の先達が、これから育っていこうとするイノセンス団体に惜しみないサポートを提供する姿勢が窺われるものでした。
「えん罪を減らそう」という一つの合言葉によって、多様な出身や背景の人々が瞬時に連帯する場でした。同じ目標を持ったファイター達が互いを認め合い苦労を分かち合うなかで、新たな闘志が湧いたのは私だけではないでしょう。ここで出会ったイノセンス・ファイターの数人とは、二週間後にニューオーリンズでのイノセンス・ネットワーク年次大会で嬉しい再会を果たすことになります。その話はまた次回…
古川原 明子〈こがわら・あきこ〉