【コラム】台湾の法科学も進んでる!(4・最終回)

研究報告

 この度の視察において、台湾国立中央警察大学の林裕順教授から「台日法学研究会」という研究会で報告を依頼され「科学による正義」というタイトルで発表した。さらに同教授から、最高検察庁においても同様の報告を求められ「法律家と科学者の協働」というタイトルで報告した。

発表会の様子

 私は台湾視察前に、鴨志田祐美氏の「インタビュー 検察官はどのように冤罪に向き合うのか―台湾の検察総長・江惠民氏に聴く」(季刊刑事弁護 No.103, 2020, 64-78.)を読ませていただいた。総長の言葉に「検察官も被告人に有利・不利の事情について、一律に注意しなければならない」、また「裁判は人間が行うものであり、人間が行うものである以上、必ず誤りが生じる」がある。日本には訴追に不利な証拠を隠してしまう検察官がいたり、日本の警察内では不祥事がある度に「失敗は絶対にあってはならない」と厳命されたりしたものである。

 この度の私の発表には、総長も臨席されるとのことで鴨志田氏の記事を目を丸くして読んだ。あまりに日本の検察官とは認識が異なるのだ。では、最高検察庁は一介の法科学研究者に何を求めているのだろう。おそらく、法律家はどのように科学(法科学)と向き合うべきか、ということではないかと考えた。

 そこで、現代は情報科学社会であり、これを用いた犯罪がグローバルな広がりを呈して深刻化していること、これに対し法科学やデジタル・フォレンジクスの強化が重要になっており、台湾・韓国・日本の法科学分野の組織改革について述べた。しかし法科学が重要とはいっても科学である以上、限界があること、また法科学の中には主観的な鑑定がありその信頼性については十分注意しなければならないことを指摘した。科学鑑定の信頼性を向上させるためには鑑定法の研究開発は勿論、証拠法や再審法など法整備、法科学研究所の訴追機関からの独立などの組織改革、一般・幹部警察官に対する法科学教育と法心理学教育の充実など科学鑑定をめぐる環境整備が必要であることを述べた。

 研究発表当日、総長が急用のため、呂文忠主任検察官が臨席され、科学の限界に対する認識、認知バイアスの理解、法科学教育の必要性に言及する講評を頂いた。聴講者は約20人。検察官のほか、裁判官や台湾イノセンス・プロジェクトの方が出席されていた。

呂主任検事と

 発表が長時間となったため質問は法科学組織に関する1件だけ頂いた。それは私が「台湾や韓国の研究所のように、研究所内で解剖からDNA型鑑定・薬毒物鑑定ができるシステムは、効率的で正確に死因調査ができ最善の方法」と発言した点で、「効率を優先することの是非」を問うものであった。確かに効率のみを優先すれば見落としが生じ、誤判断に至る危険性があり、正確さを第一にすることが重要である。万一、誤判断に至ったとしても、台湾では証拠資料が保管され、検察と警察にも法科学研究所があるので、相互にチェックができる可能性がある。日本には地方警察の検視官の立ち合いのもと、大学の法医学教室で解剖が行われ、その判断がそのまま法廷に出ることになる。日本には訴追側内でチェックする体制がないことが問題と気づかされた。

台日刑事法研究会

 最高検察庁での発表の翌日、東呉大学にて台日刑事法研究会が開催され、「科学による正義」というタイトルで話題提供を行った。

 ここでも、法律家の立場から、科学(法科学)をどのように理解し、どのように事案に用いるべきか、という点が議論された。出席者は約10人。裁判官・検察官・弁護士・法学系学生などの参加で、自由な雰囲気の研究会であった。

 科学的証拠を適切に用いえん罪を防止するためには、DNA証拠など証拠法の整備、法科学研究所の組織改革、警察官への法科学・法心理学教育が重要であることを述べた。

台日刑事法研究会の皆さんと(中央・平岡)

平岡 義博(ひらおか・よしひろ)