【IPJ学生ボランティア(甲南大学)】今西事件控訴審 判決期日を傍聴しました

 2024年11月28日に、私たちがこれまで支援を続けてきた今西事件の控訴審判決が言い渡されました。

 今西事件とは、今西貴大さんが当時2歳だった養子のA子ちゃんへ対して暴行を加え死亡させたなどとされ、起訴された事案です(事件の詳細はこちら)。今西さんは、①A子ちゃんに暴行を加え、足の骨にひびが入るという傷害を負わせたという傷害、②A子ちゃんの肛門に異物を挿入したという強制わいせつ致傷、③A子ちゃんの頭部に何らかの暴行を加えて死亡させたという傷害致死で起訴されましたが、すべてについて当初から一貫して否認を続けました。


 控訴審結審後、2024年7月に保釈されるまで、今西さんの勾留期間はなんと5年半もの期間に及びました。

 控訴審判決当日は、傍聴の抽選券配布の時間になると多くの人が列に並びました。その光景を見て事件に関心がある人が多くいることを実感しました。私は幸運なことに抽選に当選し、201号大法廷にて今西貴大さんの判決を見届けることができました。


 大法廷に入った際、記者席がこれまでの公判と比較して多かったことに驚きました。開廷前に裁判所の職員の方が「今から、報道機関に2分間だけ撮影を認めます。」と言った後に、メディアが裁判所内を撮影する時間がありました。「1分経過」「残り30秒です」「時間です。撮影を終了してください」この2分間がとても長く感じました。

【今西事件控訴審判決】
判決では、3つの公訴事実すべてについて無罪の判断が言い渡されました。
第一審で無罪が言い渡されていた傷害罪、有罪となっていた強制わいせつ致傷罪と傷害致死罪について、控訴審判決主文は「検察官の控訴を棄却する。一審の有罪部分を破棄する。被告人は無罪」でした。その一文を聞いた際には、思わず涙がこぼれました。ようやく、今西さんが平穏に生活することが出来るようになるのだと感じました。
主文が裁判長によって言い渡されたのちに、三つの公訴事実について理由の概要が読み上げられました。
今西事件の公訴事実に関する詳細な情報は過去に開催したシンポジウムに関する記事をご覧ください。


【傷害】
傷害については第一審でも無罪判決が言い渡されていました。第一審では、遊具によって骨にひびが入った可能性があるとの指摘がされました。検察官は暴行により傷害が生じたと主張しましたが、控訴審判決は、一審判決に論理則経験則違反はないとして、無罪判決が維持されました。

【強制わいせつ致傷】
強制わいせつ致傷罪については、第一審で有罪判決が言い渡されていましたが、控訴審では、第一審の有罪判決の根拠となった証拠を検討した結果、検察側は結局のところ肛門裂傷が異物挿入によるものと立証できておらず、A子ちゃんには皮膚疾患があったことが原因となった可能性があることなどを指摘したうえで、原判決には論理則経験則違反があるとして破棄し、無罪判決を言い渡しました。原審判決にて述べられた内容を否定し、検察側の立証の不十分さに踏み込んだ判決 であると感じます。

【傷害致死】
第一審では傷害致死罪についても有罪判決が言い渡されていました 。本件では、 A子ちゃんが亡くなってしまった原因がとして考えられる頭の怪我が、殴ったり蹴ったりなどの外力なのか病気などの原因によるものなのかが争われました。控訴審 判決は、検察側医師の証言のみによって、「強い外力」が加わったと推認することの問題点を挙げました。医学的所見によって、揺さぶりといった暴行態様や犯人性まで推測できるかのような議論を展開してきたSBS理論の問題点にまで踏み込んだものです。
本件ではA子ちゃんの「身体表面に外傷の存在を示す痕跡」は存在していません。今西さんには暴力的な傾向などが一切なく、虐待に該当するような事情もないことについても言及されました。
本件の所見が外力によるものであると主張するならば、原因を科学的に証明する必要があります。しかし、検察側は十分な論拠を示したものであるとは言えないとの指摘もなされました。結果として、検察側の主張は論理則経験則に基づく明らかな不合理があるとして無罪が言い渡されました。

【今回の判決を受けて】
私は、昨年の11月から控訴審のすべての公判期日を傍聴うぃました。第一審の判決文には様々な疑問がありましたが、控訴審判決では裁判長が正しい判断を行ったと感じています。どうして原審では高裁にて論理則経験則があると述べられるような判断を行ってしまったのか。 5年半以上もの間、今西さんの時間を奪ったことへの行き場のない怒りが湧き上がってきました。何よりも、地裁で正しい判断がなされていたら、今西さんはすでに平穏な日々を送れていたと思うと悲しくなりました。 主任弁護人の川崎拓也先生が、控訴審の結審後の集会で、「裁判所には普通の判断をしていただきたい」とおっしゃっていましたが、それが控訴審判決でされたことに安堵感を抱きました。
えん罪を生み出してしまう司法に対して、より一層厳しい目を向ける重要性を改めて認識しました。法学を学ぶ者の一人として、えん罪問題を「ひとごと」と思ってしまう意識を少なくして頂けるように今後の活動に努めていきたいと思っています。

【検察側上告について】
上告期限である2024年12月12日、検察官は最高裁判所に控訴審判決に対する上告をしました。これは、今西さんの自由を奪ってしまう決して許されない判断です。 上告理由として必要とされる「憲法違反・判例違反があった場合」などがあるといえるのでしょうか。上告審が結審するまでの期間、今西さんは被告人として最低1年以上は被告人としての立場に置かれてしまいます。
司法の適正な運営がなされ、上告が一日も早く棄却され、無罪判決が確定することを強く願っています。

【甲南大学2回生 京本真凜】

photo: 黒木美紗子