【学生ボランティア(京都女子大学)】和歌山カレー事件の聞き取りを行いました

事件についての聞き取りを行いました

京都女子大学IPJ学生ボランティアのメンバーが、11月26日(水)、「和歌山カレー事件」につき、弁護人の小田幸児先生と田中太朗先生から聞き取りを行いました。

この事件はIPJの支援事件ではありませんが、無実を訴えて再審を請求している事件です。

事件の概要

 和歌山カレー事件(以下、「カレー事件」)という)は、1998年7月、和歌山市園部の自治会の夏祭り会場で発生しました。提供されたカレーに亜ヒ酸が混入していて、カレーを食べた4名が死亡、63名が急性ヒ素中毒となりました。

 この事件でカレーに亜ヒ酸を入れたとされたのは、当時現場近くに住んでいた主婦のMさんでした。カレーの調理は、祭り会場横の住民宅のガレージで行われましたが、Mさんは、紙コップに亜ヒ酸を入れ、1人でカレー鍋の見張りをしていた際に、その亜ヒ酸を鍋に入れたとして殺人・殺人未遂の疑いで起訴されました。

 Mさんは、カレー事件のほかに、保険金を詐取する目的で夫に亜ヒ酸を飲ませて殺害しようとしたという殺人未遂、同じく保険金を詐取する目的で知人に対して亜ヒ酸を飲ませて殺害しようとしたという殺人未遂、さらに夫と共謀のうえ、自身または夫を被保険者とする保険契約において保険金を詐取した詐欺の罪でも起訴されています。

裁判の経緯

 カレー事件では、直接証拠がなかったことから、間接証拠によってMさんの犯人性等が認められるか否かが争点となりました。

 和歌山地裁では、①カレー内の亜ヒ酸とMさんに関係する亜ヒ酸に同一性が認められること②Mさんのみが犯行可能な状況にあったこと③カレー鍋の見張り中にMさんの不審な行動がみられたこと④Mさんが亜ヒ酸と密接なつながりをもっていたこと⑤カレー事件以外にも亜ヒ酸を使用したことがあること⑥第三者による亜ヒ酸混入の可能性がないこと、などからMさんがカレーなべに亜ヒ酸を入れたと断定し、有罪・死刑判決が言い渡されました。

 大阪高裁では控訴が棄却され、その後の最高裁では、(1)カレーに混入されたものと組成上の特徴を同じくする亜ヒ酸が、Mさんの自宅等から発見されていること(2)Mさんの頭髪からも高濃度のヒ素が検出されており、その付着状況からMさんが亜ヒ酸等を取り扱っていたと推認できること(3)祭り当日、Mさんのみがカレー鍋に亜ヒ酸をひそかに混入させる機会を有しており、その際Mさんが調理済みのカレー鍋の蓋を開けるなどの不審な挙動をしていたことも目撃されていること、などを総合することによって、Mさんが犯人であることは合理的疑いを差し挟む余地のない程度に証明されていると認められるとし、死刑が確定しました。なお、知人に対する殺人未遂については無罪となりました。

 Mさんは、カレー事件について無罪を主張し続けています。弁護団はこれまで3度の再審請求を行っていますが、現在まで再審開始は実現されていません。

事件の問題点

・科学鑑定の不正確性

 カレーに混入された亜ヒ酸とMさんの自宅等から発見されたとされる亜ヒ酸の組成上の特徴が同じであることを裏付ける証拠の一つは、SPring8という先端技術を用いた鑑定でした。SPring8は、放射光を使って物質の形や機能を調べることができる大型放射光施設です。裁判所はこの鑑定をもとに上記(1)を認定していますが、この鑑定について、専門家は、科学的根拠が十分ではないことを指摘しています。弁護人によると、そもそも鑑定人がこの技術を用いたのはこのときが初めてであり、鑑定の経験や当時の技術水準・技量等の面でも疑問がもたれるものだったそうです。

・目撃証言の信用性についての疑い

 上記(3)について、事件当日、Mさんがカレー鍋の見張りをしていた際に、鍋の蓋を外したり、道路に出たりするなど不審な行動をしている様子を向かいの家の住人が見たとされています。しかしその住人は、当初、家の1階から見たと証言していたにもかかわらず、途中で、2階から見たと証言を変更しています。また、目撃状況を再現してみたところ、実際には木が視界を遮ってしまうこともわかりました。そのようなことから、この住人の目撃証言の信用性には疑問が残ります。

・マスコミによる過熱報道

 この事件では、メディアスクラムが問題となりました。逮捕前から多くのメディアがMさん宅に張り付き、Mさんが犯人で間違いないかのような報道がなされました。そのようなメディアの過熱報道が、捜査・裁判にも影響をおよぼしてしまった可能性があります。

聞き取りを行って

 参加した学生からは、以下のような感想がありました。

・日本では、新しい科学や鑑定方法に飛びついてしまう傾向がある点が問題だと感じました。科学的証拠は客観的で誤りがないと思われがちですが、そもそものシステムが脆弱である可能性を疑う必要があると思いました。科学証拠は専門的で、弁護人の方々にとっても理解が難しい分野であるため、反対尋問で崩そうとしても容易ではないことを学びました。

・Mさんの毛髪から検出された亜ヒ酸を、その半年前のカレー事件で付着したものであるとした鑑定について、疑問をもちました。鍋の蓋を開けたわずかな時間に付着した亜ヒ酸が、そのまま半年以上も髪に付着し続けるというのは科学的にも考えにくいのに、それを事件と結びつけて考えるのは不自然だと感じました。弁護人の説明は科学的知見に基づいており、論理的で納得しやすいものでした。

・日本では、足利事件におけるDNA鑑定など、誤った科学的証拠によってえん罪が生まれてきました。当時は信頼できる鑑定だとされていても、時代が進み科学技術が発展し、その鑑定の信頼性に少しでも疑いが生じた場合は、再鑑定をすることが必要だと思いました。

・地域住民の証言には、事件そのものへの恐怖だけでなく、マスコミ報道の影響も強くあらわれていると感じました。当時は逮捕前からMさんの自宅前にマスコミが大勢張り付いていたとうかがい、プライバシーの侵害であると思いました。

・再審は時間がかかることを改めて認識しました。法律上の時間的な縛りがないため、手続きが長期化しやすく、裁判所の判断や姿勢に大きく左右されてしまう状況があるのだとわかりました。

・再審請求が今も続いているとうかがい、再審には非常に長い時間がかかるということを実感しました。マスコミ報道が裁判官の判断にも影響を及ぼした可能性があると知り、問題だと感じました。

最後に

  聞き取り調査を通じて、事件についての理解が深まっただけでなく、刑事司法のあり方についても考え直す機会となりました。この学びを今後の活動にもいかしていきたいです。

(京都女子大学3回生 Y・M)