関学IPJ学生ボランティアは、2月16日にフィールドワークを行いました。
午前中は法務省の法務資料展示室を訪れ、午後から袴田弁護団の戸舘圭之先生にインタビューをさせていただきました。
このフィールドワークの趣旨は、①袴田事件の知識を深めること、②文献では知ることのできない疑問を解決すること、③意見する力と質問する力を身につけることの3つでした。
法務資料展示室では、法務省の歴史や昔の法律の制定過程に関する多くの資料が展示されていて、日本の法制度の成り立ちについて学ぶことができました。法服の複製品や赤レンガ棟の桜の印の入ったレンガなども展示してありました。
特に、初代司法卿である江藤新平について、ガイドの方から詳しく説明を受けました。この人物は、日本と欧米が対等に渡り合えるために、司法制度を考えた人物です。
展示を鑑賞できるだけでなく、パンフレットも持ち帰ることができました。
戸舘先生へのインタビューでは、文献では得られない貴重なお話を聞かせていただき、とても有意義な時間となりました。
私たちは、事前に、袴田事件に関する勉強会を定期的に行っていました。
戸舘先生にお話していただくテーマは、この勉強会で出てきた疑問や意見などをもとに設定しました。
具体的には、①検察官抗告と再審の長期化、②再審請求審における証拠開示に、③再審請求中の死刑執行の3つでした。
① 検察官抗告と再審の長期化に関して、戸舘先生はやはり、検察官抗告は憲法39条に反するので許されず、法改正をして検察官抗告を禁止すべきというお考えでした。袴田事件でも、検察官抗告によって再審開始が遅れました。これがなければ、再審公判は9年前には開始できていたのではないかと言及されていました。
このテーマの中で特に印象に残ったことは、検察官(検察庁)の中に、“自分たちや先輩が今までしてきたことを否定するのは良いことではない”という組織意識が存在しているということです。そのことを検察庁側が表立って言うことはないものの、袴田事件の弁護団としてそれを感じさせられることが多い、と戸舘先生は仰っていました。実際に袴田事件の弁護団として活動していても、検察官は袴田氏が犯人だと真顔で言ってきたり、「死刑で当然だ」と考えていることが伝わってくるとのことでした。
検察官は自分たちを信じて疑わず、これほど周りから無罪だといわれても、一度出た判決を誤りだと認めたくないというプライドがあるのではないかというお話に、衝撃を受けました。
② 再審請求審における証拠開示に関して、戸舘先生は、証拠開示における裁判官の態度にかなり違いがあると述べられました。
再審請求審の証拠開示は刑事訴訟法に規定がなく、裁判官の訴訟指揮に委ねられるため、全く相手にしない裁判官も存在するようです。
袴田事件を例に挙げてみると、第一次再審請求では、ほとんど開示されませんでした。
その後、第二次再審請求では、裁判所の勧告によって、500点以上の証拠が開示されました。
また、「再審請求前の証拠開示と再審請求審の証拠開示、どちらが改善の余地があるのか。」という質問には、再審請求審の証拠開示では再審請求前よりも詳細・具体的に芋づる式に知りたい情報が増えてくるとのことでした。
再審請求前に全ての証拠が出てくるのが理想であるものの、二段構えのような構造なので手探りで争いを続けなければならず、全事件で証拠のリスト化をすべきだと仰っていました。
③ 再審請求中の死刑執行に関して、再審の価値を無辜の救済とするなら、死刑制度はこれと矛盾しているため、そもそも死刑制度を廃止すべきだと戸舘先生は考えておられるようです。
仮に死刑制度を受け入れるとしても、間違った死刑はあってはならないというのが大前提にあり、再審請求中の判断が出ていない中で死刑が執行されるのは、無辜の救済につながらないと考えておられるようです。
実際に、袴田事件の再審請求中にも、死刑が執行されてしまうのではないかという焦りがあったそうです。
死刑を執行させないために、恩赦を出願したり、行政訴訟や人身保護請求などを通じて死刑執行停止命令を出してもらうことなど、あの手この手を考えていたそうです。
このように、実際の弁護団の先生から聞くお話は、文献から得られないリアリティとそれに伴う重みがありました。
関学IPJにとって、今回が初めてのフィールドワークでした。これからも、座学以外の学びを積極的に企画していこうと思います。
改めまして、この場をお借りして、戸舘先生に御礼を申し上げます。
今回は、このような貴重な機会をいただき、ありがとうございました。
関学IPJ学生ボランティア一同、深く感謝申し上げます。
関西学院大学法学部2年 Y.H.
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