ニュースレターvol.8を配信しました

 まだまだ暑い日が続きますが、いかがお過ごしでしょうか。ニュースレターvol.8をお届けします!

追悼:桜井昌司さん

 布川事件の再審で無罪が確定した桜井昌司さんが、2023年8月23日に亡くなりました。
 えん罪撲滅のために力を尽くしてこられた桜井さんは、IPJとも関わりが深く、活動を支えてくださっていました。
 IPJの前身である「えん罪救済センター」の代表であった稲葉、副代表の笹倉、そして親交の深かった台湾IPからの追悼メッセージを掲載します。


 自らがえん罪被害者であり、また他のえん罪被害者の支援活動に取り組んでこられた桜井昌司さんが、本年8月23日についに旅立たれた。76年の人生のうち29年間を、えん罪のために刑務所で過ごすという過酷な人生を歩んでこられながら、桜井さんはいつも周囲を明るく照らし、エネルギーを与え続ける方であった。その意味で桜井さんは、日本のえん罪被害者にとっても、またイノセンス・プロジェクト・ジャパン(IPJ)に携わる人々にとっても、まさに「太陽」のような存在であった。
 これまで私は、あの笑顔に何度も心を洗われる思いをしてきた。そのうちの1回は、台湾のえん罪被害者・蘇さんらを招いたIPJ主催のイベントである。蘇さんのお話は過酷で残酷なものであり、私は結びの挨拶を仰せつかっていながら、立ち上がることさえ難しい状態になってしまった。しかし桜井さんが舞台にあがり、いつもの明るい笑顔で、かつ大変力強い口調で、「苦しみを超えて、前に向かって強く生きていこう」といった呼びかけをされた。私はそれを伺って目が覚めた気分になり、やっと結びの挨拶をすることができた。
 桜井さんが発してきたエネルギーは、これからもずっとえん罪被害者を照らし続け、また司法の間違いを正そうとする人々を鼓舞し続けていくことだろう。
  桜井さんのご冥福を心よりお祈りいたします。

稲葉光行(立命館大学教授)
IPJ科学者ネットワーク委員長/「えん罪救済センター」元代表


 桜井昌司さんが旅立たれたと伺ってから、心の一部に穴が開いてしまったような思いで茫然と時間が過ぎています。
 桜井さんは、私たちえん罪救済に関わる者にとって、かけがえのない仲間であると同時に、師でもありました。
 桜井さんはイノセンス・プロジェクト・ジャパン(IPJ)の立ち上げのときから、えん罪者の力になってほしいと叱咤激励くださり、活動に大きな期待を寄せて下さいました。2018年に開催したIPJボランティア学生主催のシンポジウムをはじめ、いくつものイベントにご登壇いただきましたし、学生にも講演や講義を通じてえん罪被害の実態を教えてくださいました。
 2018年には、台湾イノセンス・プロジェクト(IP)の大会にIPJのメンバーと一緒に行き、私たちの盟友である台湾IPの仲間や、台湾のえん罪被害者の方々と交流されました。言葉は通じなくても想いを通じ合わせ、日本での再会を約束しました。翌年には京都でIPJと台湾IPがアジア・イノセンス・ネットワークの設立記念シンポを共催しました。桜井さんは台湾のえん罪被害者との再会を果たし、この地球上からえん罪をなくすために協働することを誓いました。「台湾の仲間たちを含め、同じ想いを持つ同士と一緒のときを過ごしますと、新たな想いになりますね」と、ますますパワーを蓄えていく桜井さんでした。
 桜井さんとは、コロナ禍が明ければいつかアメリカで開催されるイノセンス・ネットワーク大会に一緒に行こうとも約束していましたが、かなわなくなってしまいました。
 これまで桜井さんとやり取りをしたたくさんのメッセージを読み返し、桜井さんがいつも獄中そして獄外の仲間のことを思い、日本中を駆け回っていたことをあらためて思い出します。
 SBS(揺さぶられっ子症候群)えん罪のお話をすると、すぐに公判の傍聴に来てくださいました。闘病中にもかかわらず、IPJも支援している今西貴大くんに会いに、大阪拘置所まで面会に行ってくださいました。桜井さんは誰よりも軽い足取りでどこにでも行って、明るい笑顔と声でみんなを励まし、私たちの強い支柱になって下さいました。
 IPJはまだまだ桜井さんのご期待に沿えるような活動はできていないかもしれません。でも、桜井さんのご遺志をしっかり受け継いで、理不尽な思いをしている方々のために、少しでもお役に立てるよう、引き続き力を尽くしていきたいと思います。
 「先生たちの存在を支えに闘っている仲間がいます」。桜井さんからのメッセージをしっかり心に刻みます。
 桜井さん、本当にありがとうございました。これからも私たちのことを励まし続けてください。そして、本当に一人ひとりを大切にする刑事司法が実現するよう、見守ってください。
 心よりご冥福をお祈りします。

笹倉香奈(甲南大学教授)
IPJ事務局長/「えん罪救済センター」元副代表


 2018年に桜井昌司さんは台湾イノセンスプロジェクトの年次大会の基調講演をしてくださいました。桜井さんは台湾の冤罪被害者とともに語り合い、お互いを深く理解し合いました。2019年には32年戦って再審無罪を獲得した蘇炳坤さんがIPJのシンポジウムに招待され、桜井さんとともに登壇しました。2人の姿は感動を呼びました。コロナのさなかの2022年、台湾IPとIPJはオンラインシンポジウムを共催しました。桜井さんは「日本の冤罪救済を」と閉会の講演をしてくださいました。かなり痩せて髪が白くなった桜井さんは、病と戦いながらも、冤罪問題のために声を張り上げました。ウェブ上での再会でしたが、桜井さんの姿に胸打たれ、尊敬の念を新たにしました。
 台湾IPにとって、桜井さんは長年の親友です。頻繁には連絡せずとも、いつもそばにいてくださいました。桜井さんの歌声、桜井さんの詩が、2018年の台湾の年次大会会場に今なお響き渡っています。
 桜井さん、本当にありがとうございました。残された私たちは、これからも冤罪被害者の自由のために尽力を続けます。ご冥福をお祈りします。

台湾冤獄平反協会(台湾イノセンス・プロジェクト)一同

 8月26日、27日にかけて開催された台湾IPの年次大会では、桜井さんの追悼も行われ、国境を越えて、桜井さんを惜しむ声があがりました。

神戸質店事件の支援が本格始動

 IPJの新たな支援事件をご紹介します。今後、ホームページの 「支援の実績」で情報を発信していく予定です。

神戸質店事件とは
 平成17年10月、神戸のある質店で店主が殺害され、現金約1万円が奪われるという強盗殺人事件が起こりました。
 緒方秀彦さんは、電気工事士です。質店の店主から、防犯カメラの設置が可能かどうかみて欲しいと言われ、質店の中に入ったことがありました。質店には、その際についた緒方さんの指紋や足跡が残っていたため、緒方さんは強盗殺人事件の犯人だと疑われてしまいました。
 一審の裁判所は、緒方さんの指紋や足跡は、事件とは別の機会についた可能性があるとして、無罪判決を下しました。しかし、検察官は無罪判決が不服だとして控訴し、控訴審の裁判所は無期懲役の有罪判決を下しました。この有罪判決は確定し、緒方さんは今でも服役しています。
 IPJは緒方さんのえん罪が晴れるよう、支援しています。

緒方秀彦さん

IPJ活動報告

(1)新規支援申込……8件(7月)
(2)審査中の事件……34件
(3)支援中の事件……4件

IPJサポーター募集中!
 えん罪は過去のものではありません。支援を受けることができずに苦しんでいる方が、まだまだ多くいらっしゃいます。IPJは、えん罪被害者が適切な支援につながるための窓口となることを目指して活動しています。

 皆様からのご寄付により、IPJのリーフレット改訂版の増刷が可能となりました。また、ピンバッチやステッカーなど、IPJを広めるためのグッズも作ることができ、学生ボランティアのモチベーションが上がっています。今後、ご寄付をくださった皆様へお礼としてこれらのグッズをお渡しできる仕組みを検討中です。

今西事件最新情報

 前回の尋問期日には、今西貴大さんの応援のためにたくさんの方が来てくださりました。今西さんは、傍聴席にたくさんの支援者が来てくださっていたことについて、「ありがたいですね」としみじみおっしゃっていました。傍聴席からのエールは今西さんにしっかりと届いています。
 弁護団は10月に行われる尋問の準備に尽力しています。
 次回の尋問も、応援よろしくお願いします。

今西事件弁護団 湯浅彩香

今月のコラム

 今月のコラムは、韓国調査旅行記の第二弾と、刑事司法の基礎知識です。今後、メンバーがお勧めする一冊や映画など、気軽に読めるコンテンツを増やしていく予定です。「こんなコラムを読みたい!」というリクエストや感想など、ぜひ フォームからお知らせください。

1)韓国の科学捜査が凄い!-韓国調査旅行記(その2)
 平岡義博(元科学捜査研究所主席研究員)による韓国調査旅行記の第二弾で取り上げるのは、国立法科学研究院です。その機能や位置付けは、日本の科学警察研究所と大きく異なります。全文は こちらから。

2)「犯罪者」として疑われた人の生活とは?-「未決拘禁」って何?
 悪いことをした人は「牢屋」に入る。そんな光景を小さい頃からさまざまな創作物で見てきたわれわれは、刑務所は知っていても、拘置所や留置場のことはあんまり知らない。「犯罪者」として疑われた人は、身柄を拘束された後、一体どんな生活をしているのだろう。そんな「未決拘禁」についてざっくりご紹介。全文は こちらから。

夏休みの学生ボランティア

試験が終わった学生たちは、夏休みを利用して、精力的に活動しています。

1)広報会議・交流会に50名以上の学生ボランティアが参加!

 8月の初め、学生ボランティアたちが集まって広報会議を行いました。えん罪の問題やIPJについて、どのように社会に発信していくかということを議論し、実践していくための会議です。参加学生は多数の大学に所属していますので、学期中はなかなか対面で会うことができません。そこで、感染症の影響がようやく落ち着いてきたこともあり、夏休み期間に会議を開催したところ、なんと総勢50名が参加しました!参加した学生のレポートは こちらから。

2)「ひとごとじゃないよ!人質司法」レポート

 龍谷大学からは、会場でスタッフとして参加した学生、オンラインで視聴した留学生の レポートが届きました。また、国外への発信となるよう、京都大学の学生ボランティアが英文での レポートに挑戦してくれました。

3)甲南大の学生ボランティアが模擬裁判に参加!

 甲南大学の夏のオープンキャンパスで上演された模擬裁判に、2回生から4回生の甲南大IPJボランティア6名が出演しました。刑事裁判の大原則「疑わしきは被告人の利益に」を、模擬裁判をとおして来場者に伝えられたでしょうか。学生のレポートは こちらから。

4)獨協大学

 獨協大学IPJ学生ボランティアでは、7月11日にさいたま地方裁判所へ裁判傍聴に行きました。今回の裁判傍聴は、新しく中央大学からIPJ学生ボランティアに入会した新メンバーと行う、初の他大学との対面合同イベントとなりました。午前中のみでしたが、拐取者身の代金要求・同取得等の裁判員裁判を傍聴しました。学生のレポートは こちらから。

 また、学内イベントで人質司法と代用監獄をテーマとしたポスター展示も行いました。拘置所で実際に拘束されている方から聞いた話も盛り込み、「ひとごとじゃないよ」を実感してもらえるように工夫を重ねました。写真付きのレポートは こちらから。

編集後記

・イノセンス・プロジェクト・ジャパン(IPJ)のメンバーであり、立命館大学特別研究フェローの浅田和茂先生が、8月12日にご逝去されました。思えば、司法制度も学内行政もわからない私が、「日本版イノセンス・プロジェクトを立命館で立ち上げたい」とご相談をさしあげた時には、その圧倒的な学識と実務・行政経験をもとに、丁寧かつ的確な数々のご助言をいただきました。その後浅田先生にもご参加いただき、設立準備室開設、任意団体結成を経て、ついに本年、クラウドファンディングなどからの大きな支援を得る形でIPJが法人化されました。浅田先生はその過程を見届け、次世代にご自身の思いを託す形で旅立たれたのではないかという気がいたします。浅田先生のご冥福を心よりお祈りいたします。(稲葉光行)

・IPJでは広報活動を手伝ってくださるボランティアを募集しています! 動画や音声の編集、ライティング、デザインができる方など、IPJにお力を貸していただける方はぜひ ご連絡ください。