聞き取りと意見交換会を実施しました
2025年10月26日、福岡県で京都女子大学IPJ学生ボランティアのメンバーと刑事訴訟法ゼミの共同で、マルヨ無線事件の弁護団の先生方から直接お話をうかがう貴重な機会をいただきました。
マルヨ無線事件はIPJの支援事件ではありませんが、日弁連の支援のもとで再審を請求している事件です。
事件概要
1966年12月5日、福岡市下川端町(現・博多区)の家電量販店「マルヨ無線川端店」で強盗殺人・放火とされる事件が発生しました。
確定有罪判決では、元従業員のO氏(当時20歳)と少年A(当時17歳)が深夜に店舗に侵入し、宿直中の店員2名をハンマーで殴打して重傷を負わせ、現金約22万円と腕時計を奪った後、証拠隠滅のため石油ストーブを蹴り倒して放火したことになっています。そして、この事件では店員1名が焼死しています。
O氏は福岡地裁で有罪・死刑判決を受け、1970年に最高裁でそれが確定しましたが、その後、強盗の事実については認めつつ、放火について無実を主張し、えん罪を訴え続けています。現在は7度目の再審請求を行っているところですが、その途中で、少年Aの取り調べを録音したテープを含む50点以上の証拠が新たに開示されるなどの動きがあり、再審開始につながるかどうかが注目されています。
聞き取りの概要
事前に事件資料を読み込み、疑問点や質問事項を整理したうえで聞き取りに臨みました。
最初に弁護団の先生方から、事件の概要、争点、証拠構造について丁寧に説明していただいた後、学生からの、石油ストーブとそれに関する鑑定の問題、自白をめぐる問題、長期の身体拘束の問題、証拠開示の問題、再審制度の課題などについての様々な質問に答えていただきました。この聞き取りを通して、事件についての理解を深めるとともに、刑事司法制度の現状と課題、そしてえん罪救済の難しさについて深く考える機会を得ました。
聞き取りで学んだこと
今回の聞き取りと意見交換会では、「自白」「証拠開示」「再審請求とストーブの鑑定」の3つのテーマについて学びを深めました。
・「自白」について
O氏と少年Aは捜査段階と第一審の段階では犯行を認める供述をしています。私たちは、その自白の内容が客観的証拠と矛盾するところに疑問をもち、当時の取調べに問題があったのか、自白の経緯や、なぜ公判でも自白をしたのか等についてお話をうかがいました。
そして、O氏は当時の弁護人に何度も助けを求める手紙を出したのに、弁護人が初めて接見に訪れたのは公訴提起から1年8か月もたってからであり、そのときはすでに罪状認否まで進んでいたため、弁護人から「もう否認は通らない」といわれてしまったのだということを教えていただきました。O氏は、やっていないのに認めてしまったことで精神不安定になり、病院に留置されていたそうです。
また、O氏と少年Aは強制・誘導・暗示に弱い「供述弱者」でした。開示された少年Aの録音テープには、直接的な強要の痕跡は確認されなかったそうですが、至るところに警察官の「合いの手」が入り、それに合わせて少年が供述をしている様子もみられるし、録音されていないところでの誘導があった可能性も否定できないそうです。お話をうかがって、自白の信用性は決して高くなく、取調べ方法に大きく左右されること、特に、供述弱者の場合、直接的な圧力がなくても、捜査官の発言や質問の仕方によって暗示や誘導を受け、供述内容に影響する可能性が高いことなど、取調べと自白にかかる構造的問題をあらためて理解することができました。
・「証拠開示」
この事件での証拠開示をめぐる攻防について教えていただくとともに、諸外国と比べて日本の証拠開示制度が遅れているのではないか、再審の段階でも検察官がすべての証拠を保管する制度で良いのか、検察官と弁護人との力の差異があるのに不平等な制度になっていないか、等の質問に対してもご意見をうかがいました。
日本の刑事司法制度では検察が証拠を管理し、証拠開示の可否を判断する仕組みになっています。私たちは、裁判所が証拠開示に積極的でないようにみえること、弁護人に不利な判断がされることがあることについて疑問をもっていたのですが、先生方のお話をうかがって、裁判所が十分に介入することが難しい現状と、制度改革が進みにくいことについて理解しました。近時導入されたデジタル化についても、結局、証拠開示の範囲や根本的な力関係は変わらないのではないかという疑問をもち、それについてもうかがったところ、やはりその通りであることも確認できました。
再審請求に必要な証拠が開示されるまでに膨大な時間と労力がかかること、未開示の証拠が存在する可能性があること、そして諸外国と比較して日本の制度には透明性や中立性に問題があることをあらためて認識しました。
・「再審請求とストーブ鑑定」
再審請求では複数の鑑定が提出されています。それぞれの内容と問題点について詳しく教えていただき、先生方のお話には納得したものの、それを自分たちの言葉で他の人に説明するのは正直難しいこともわかりました。また、裁判所が、鑑定の内容を一定程度認めつつも、認定の組み換え(自白どおりに「ストーブを蹴倒す」と灯油缶が本体から離脱し、燃焼は継続できないことが判明したにもかかわらず、「足を使って押すようにして倒しかける」ことも「蹴倒す」という言葉に含み、O氏が故意にストーブを転倒させて放火したことにかわりはないと認定したこと等)を行っているのが問題だと感じていたのですが、その点についても確認することができました。
また、O氏の録音テープが「不存在」とされていたのに後から関連する資料(録音テープが入っていたはずの茶封筒)が発見されたというお話をうかがい、当時の証拠管理の杜撰さと、捜査機関任せの管理体制に重大な問題があることを知りました。さらに、新証拠の提出は再審の扉を開くために必須であるにもかかわらず、その契機となるはずの証拠開示が不十分なために、再審請求のハードルが非常に高くなってしまっていることも理解しました。
この意見交換会を通じて、私たちは、日本の刑事司法と再審をめぐる重大な課題について学ぶことができました。そして、制度改革と文化的意識の変革が不可欠であることを強く認識しました。
参加した学生の感想
学生の感想の一部を紹介します。
・弁護士の先生のお話をうかがって、Oさんは放火はしていないのではないかという気持ちが強くなりました。一刻も早く再審請求が通って放火についての無罪が認められたらいいなと思いました。
・検察官が証拠を管理する一方で、それを開示するかどうかの判断もしている仕組みと、弁護側に有利な証拠がなかなか出てこない点に疑問を持っていましたが、中立的であるはずの裁判所がなかなか介入できない現状や、制度を変えようとしてもなかなか進まない現実についてうかがって、法律の運用の難しさを実感しました。新しい制度ができても根本的なところが変わらないというお話もあり、制度を変えるだけでなく文化や意識を変えることも大切なのだと感じました。
・私は、再審請求において新証拠を提出することは裁判の再検討を促す大きな契機となると考えているので、それにつながる証拠開示についての制度や運用を明確かつ厳格にすることが重要なのではないかと考えました。
全体として、制度の難しさ、人間の弱さ、弁護団の信念が強く印象に残り、法律は制度だけでなく現場の運用や文化が重要であることを理解し、えん罪救済の困難さを実感することにもなったことで、法学を学ぶモチベーションが高まったという声が多くありました。
(京都女子大学3回生 Y.M)


