第213回通常国会での議論の全体像
2024年6月23日に閉会した第213回通常国会の議事録が国会会議録検索システムで公開されました。これを受けて、ひとごとじゃないよ!人質司法プロジェクトでは、その中から人質司法等の刑事司法問題に関連する質問と回答をピックアップし、データベース化しました。
会期直前に、大川原化工機事件における検察と警察庁による捜査を違法とした判決が出されたり、また会期中にも、様々な検察不祥事等の報道がされたりしたこともあり、同国会では人質司法等に関連する質問が活発になされました。他方で、質問内容の多くが現在係属中の裁判に関わる事件に関連するものであることから、答弁が避けられ、建設的な議論がなされない場面も見られました。
以下では、問題テーマごとに、第213回通常国会でどのような議論がされていたかを振り返ります。
否認事件における長期の身体拘束について
人質司法問題の核ともいうべき、「被疑者、被告人が否認又は黙秘をしている限り長期間勾留し、保釈を容易に認めないことにより自白を迫る」という問題については、2024年3月22日の参議院法務委員会で古庄玄知議員が最初に問題を提起し、以来、同委員会で7回にわたって質問が重ねられています。
2024年4月4日の参議院法務委員会では、福島みずほ議員が「自白した場合は約七一%の人は一か月以内に保釈が認められ、否認の場合は六か月でようやく七四%」といったデータを示して問題を提起しています。さらに、無実にもかかわらず長期間勾留され、がんが発覚したにもかかわらず保釈が認められずに亡くなった大川原化工機事件の被害者の例を挙げ、適切な場合にきちんと保釈が認められるよう、その要件を具体化することを提言しています。
[参考] 【人質司法】無実を訴えたまま失われた命―相嶋静夫さんのストーリー
保釈請求が却下される場合の多くは、「罪証隠滅のおそれがある」と抽象的に認定してこれを却下の理由としていますが、この点については、2024年4月9日の参議院法務委員会において、古庄玄知議員が「保釈については、保釈するのが原則であって、罪証隠滅のおそれは極めて厳格に解さなければならないのを極めて緩く解していて、検察庁にお墨付きを与えるような運用がされている」と警鐘を鳴らしています。
さらに、2024年4月25日の参議院法務委員会においては、2019年から2020年にかけて法務大臣を務めた森まさこ議員が、当時、日産自動車のゴーン被告の長期勾留の報道を受けて海外からなされていた日本の刑事司法制度についての批判について、「反論できかねる部分があったことも事実」と述べた上で、この問題については「不断の見直しをしていくと私が大臣時代にお約束をし」たと強調しています。これに対して小泉法務大臣は「その精神をいっときも忘れることなく引き継いでいきたい」と回答しています。
取調べの録音・録画について
取調べの録音・録画は、一部事件を対象に令和元年より義務化されたものの、その対象事件は極めて限定的なものにとどまります。人質司法プロジェクトでは対象事件の拡大を訴えていますが、国会においてもそのような議論が見られました。
[参考] 「人質司法解消法」要綱案
2024年3月27日の衆議院法務委員会では、寺田学議員が、裁判所により違法と認定された大川原化工機事件の捜査を受け、「あんなことをされるか分からないという恐怖感があるわけで、それに対する対抗措置として、録音、録画してくれと言った人に対してはしっかりとする環境を整えないとフェアじゃない」と、取調べの録音・録画の重要性を訴えています。
また、鈴木宗男議員も、複数回にわたって参議院法務委員会で取調べの録音・録画について言及しています。2024年5月9日の参議院法務委員会では、「被疑者は録音、録画の制度がありますけれども、参考人にはないんですね。あるいは、在宅の被疑者の聴取等についても録音、録画がない」と対象事件の少なさについて問題提起し、「やっぱりこの可視化、録音、録画は、参考人だとかあるいは在宅被疑者の取調べなんかでも採用しなければ、この真に公正公平な判断はできないし、冤罪が起きる」と訴えています。
取調べへの弁護人の立会い・接見について
取調べへの弁護人の立会いの必要性は、森まさこ議員が2024年4月25日の参議院法務委員会において引用した、冤罪被害者の村木厚子さんの言葉が端的に言い表しています。森議員の引用によれば、村木さんは、「取調べというのは、リングにアマチュアのボクサーとプロのボクサーが上がって試合をする、レフェリーもいない、セコンドも付いていないというような思い」、「せめてセコンドが付いていただけるということだけでも随分まともな形になるのではないか」と述べています。
[参考] 【人質司法】検察官「私の仕事は、あなたの供述を変えさせることです」 村木厚子氏のストーリー
さらに、2024年5月16日の参議院法務委員会の前半部分では、森まさこ議員が「取調べにおける弁護人の立会い、これを今の在り方協議会(※2022年より開催されている改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会)で正面から議論する、村木厚子さん始め、ヒアリングをするということをやっていただきたい」と述べ、小泉法務大臣から、取調べへの弁護人の立会いの問題は「在り方協議会の当然対象として取り上げられるべきものである」との答弁を引き出しています。さらに2024年5月16日の参議院法務委員会の後半部分では、鈴木宗男議員も「しっかりここは取り組んでいただきたい」と念を押しています。
ところが、2024年6月18日の参議院法務委員会で、森まさこ議員は、「この委員会における大臣の答弁をないがしろにする発言があった」と指摘します。局付検事から、「森先生、弁護人の立会いについて議論するかどうかは委員が決めるんですから」、取調べへの弁護人の立会いについて「議論をしないとは言っていないんですけど、録音、録画の議論の中の一部として立会いを取り上げると決まっているので、森先生はそれとは別に、録音、録画とは別建ての回で弁護人の取調べの立会いを議論するという、そういう御主張をするんですか」との発言があったというのです。森まさこ議員はこの点を指摘し、これに対し、小泉法務大臣は、改めて、「事柄の性格に鑑みて、これは、やはりしかるべき時間を掛けて検討するべき問題だ」、「特定の問題の一部に押し込めてしまえる問題ではない」と回答しています。なお、在り方協議会の議事録はこちらより閲覧できますので、弁護人の立会いについての議論が十分になされているかを確認することができます。
なお、2024年6月18日の参議院法務委員会において、福島みずほ議員は、「警察においても、犯罪捜査規範で、取調べを行うに当たって弁護人その他適当と認められる者を立ち会わせたときは、その供述調書に立会人の署名や押印を求めなければならないとあるように、立会人を禁止しておりません」との点を強調しています。福島議員による質問は、運用のあり方を問うものであると言えます。
ぜひデータベースへのアクセスを!
以上で取り上げたテーマ、質問内容は、全体のごく一部にすぎません。ぜひこちらのデータベースにアクセスし、国会でどのような議論がなされているかご覧ください。なお、YouTubeでも、議員の公式チャンネルなどで委員会での議論の録画を視聴できます。
さらに、「改正刑事訴訟法に関する刑事手続の在り方協議会」において、より詳細な議論がなされていますので、そちらもあわせてご確認ください。
データベースは今後も更新予定です。随時関連するブログ記事も投稿予定ですので、ぜひお楽しみに!
〈HRWインターン/東京大学大学院法学政治学研究科2年 田中 和〉